7 | ナノ
※監視官狡噛設定

 わたしは狡噛さんに抱き締められるのが好きだ。そして、狡噛さんもわたしを抱き締めるのが好きだ。
 多忙を極める公安局に勤めるわたしたちは一般企業とは違い、決まった休日というものがない。休暇はローテーションで決まるため、安定した休暇や一定の休暇とは無縁だった。けれども、わたしたちの部署が違うことと、ローテーションの周期がたまたま重なったことで、わたしと狡噛さんは久しぶりに休暇らしい休暇と、恋人らしい時間を過ごしていた。
 こうしてわたしたちが抱き合い、互いの体温を確かめ合うのも、会いたくても会えなかったときに感じた寂しさやもどかしさ、それに似た感情を埋めるための行為なのだ。

「こうして抱き合うの……久しぶりですね」
「そうだな」

 わたしはシャツ越しに感じる狡噛さんのぬくもりを心地よく感じた。けれども、互いに衣服を身に付けているため、肌越しに感じることができず物足りなさを覚える。わたしは彼に擦り寄った。彼をもっと近くに感じたくて、もっと彼のぬくもりがほしくて、彼の胸元に縋るように頬を寄せた。そんなわたしを狡噛さんは小さく笑って、ぎゅっと抱き締めてくれた。腕の中にすっぽりと収まったわたしを、きつく、けれども優しく包み込む。そして、肩から腰のラインをするりと撫でられ、わたしの首筋に彼の顔がうずめてきて。何かを探るようにくんとわたしの体臭を嗅いできた。途端わたしは慌てた。

「ちょ、狡噛さんっ」
「なんだ?」
「なんだじゃないですよっ! 今日は、その……ちょっと蒸し暑いですから、えっと……汗ばんでるんです」
「だからか」
「何が、ですか?」
「お前の汗のにおいがいつもよりきついなと思ってな」
「な、な……っ! だ、駄目です! ちょっ、離してください!」
「おい、暴れるな」
「暴れます! 暴れますからっ! わたし直ぐにシャワー浴びてきます! 離してください!」
「そんなことしなくていい」
「な…な、な、何言ってもるんですかっ! しなくていいなんて、そんなの駄目です! 嫌に決まってます! 汗くさいなんて…!」
「おい、待て。誰が汗くさいって言った?」
「………、ぇ…?」
「汗のにおいがいつもよりきついとは言ったが、くさいとは言ってないだろ」
「で、でも……意味合い的には同じじゃないですか…」
「違うな」

 即答されてしまい、わたしは言葉に詰まってしまう。なんて返せばいいか分からなかった。

「俺はお前のにおいが好きだ」
「は……?」
「シャワーなんて浴びなくていい。今日はずっとそのままでいろ」
「!?」

 わたしは反発心から叫びそうになるけれど、寸前で狡噛さんに遮られた。狡噛さんはわたしの首筋のにおいを嗅ぎながら、汗ばんだ肌に舌を這わせ、ぺろりと舐めた。わたしは反射的に肩を震わせ、情けない声を上げてしまう。

「塩辛いな」
「やめ……っ! 言わないでくださいよ!」
「少し舐めたくらいで大袈裟なやつだな。減るもんじゃないだろ。気にするな」
「気にします! すっごく気にします! わたしの中の何かが減ります!」
「大丈夫だ」
「何がっ?! どうしちゃったんですか、狡噛さん! すっごく変ですよっ!」
「今までもこんなもんだったぞ」
「え」
「お前が気づいてなかっただけだ」
「え」
「俺はお前のにおいを嗅ぐと興奮する」

 わたしは狡噛さんのとんでもない発言に絶句した。唇を戦慄かせる。恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。

「なあ、なまえ」
「なん…ですか」
「ベッドに行くぞ」
「……。まだ昼前なんですけど」
「まあ、そうだな」
「朝ごはんも昼ごはんも食べてませんよ」
「ああ」
「わたし、お腹空きました」
「俺もだ」
「だったら……ここは健全にいきましょう。ちょっと遅いですけど朝ごはんに」

 しましょう、と声にする前に、再び狡噛さんに首筋を舐められ、あろうことか歯を立てられた。

「ひ……ぅ」

 痛くはなかったけれど、捕食されるような感覚に思わず声を上げてしまう。狡噛さんはわたしの反応に気を良くしたのか、ちゅっと音を立てて、汗ばんだそこを執拗に唇と舌で弄ぶ。わたしは甘い擽ったさと蕩けさせるような疼きに頭の芯がぼーっとなり、されるがまま、狡噛さんに身を預けるしかなかった。

「ん、こうがみさ……っ」
「……は……っ、興奮するな」
「ぅ……」
「なあ、なまえ…」

 首筋に狡噛さんの熱い吐息がかかる。わたしは肩を震わせた。

「メシはお前でいい」
「……ッ」
「お前を食べれば腹いっぱいになるだろ」
「そ、それは……狡噛さん…だけでしょ、っ」
「そうだな」
「うー」
「運動してからでも遅くないだろ」
「だったらごはん食べてから運動しても遅くないと思いますっ」
「それはそうだろうが、俺が我慢できない」
「こう…が、み、さん」
「やらせろ、なまえ」

 狡噛さんに強く腰を抱かれ、わたしは潤んだ瞳と上気した顔で頭一つ分高い狡噛さんを見上げた。

「っ、」

 情欲に濡れた狡噛さんの瞳を眼前にしたわたしは、逆らえる方法を見出だせず、狡噛さんから目を逸らせないまま、こくりと頷くと、狡噛さんはにやりと口元を歪め、いやらしい笑みを見せた。

「腰が砕けるまで可愛がってやるよ」
「お手柔らかにお願いします」

title by 夜途
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