※百合表現あり
「なまえさんって、狡噛さんの恋人なんですか?」
彼女の言葉に唖然として、紅茶を溢してしまった……
ソレを慌てて布巾で拭って朱ちゃんを見た
『は?』
「えっ?違うんですか?」
キョトンとしながら言う彼女は可愛いが、言っている内容が酷く恐ろしい…
『……一応聞くけど…なんでそう思ったの?』
「だって、いっつも狡噛さんと一緒に居るじゃないですか?それに仲良さそうですし…」
そう言って、紅茶に角砂糖を2つ程入れるとティースプーンでかき混ぜ彼女はそれを口に運んだ
『仲が良い、ねぇ…そうかしら?私としては、朱ちゃんのほうが狡噛君と仲良さげだと思うけど…?』
意味ありげに笑うと顔を赤くして「そんなことないっ!!!」と否定する彼女を見て内心狡噛に『ご愁傷さま』と言うと紅茶に手をつける
『仮にそうだとしたら、どうする?』
急に真面目な顔で言う私に朱ちゃんは驚きつつも私を見て言った
「…その時は、狡噛さんに嫉妬します!!」
『へぇ〜………、ハァ!?』
ビックリしてまた紅茶を溢しそうになったが、それを阻止して彼女を見る
「だって、なまえさんとずっと一緒に居るんですよ!!狡いです!!!」
爆弾発言を繰り返す彼女を恐ろしく思いながら、紅茶を飲み干す
『そ、そうかしら?ありがとう?』
感謝すべきか悩んだが、一応礼は言っておく
「……正直、狡噛さんが羨ましいです」
紅茶に視線を落としてティースプーンで紅茶を混ぜる彼女は悲しそうな顔をしていた……
疑問に思いながら前に狡噛が言っていた言葉を思い出す
「"常守はアンタに夢中みたいだぞ?"」
可笑しそうに笑って言っていた彼の言葉がずっと気掛かりだった…
自分の後輩として入って来た彼女が自分に夢中だ、などと言われて当時はなんとも思わなかったが、最近になって彼女を知っていく度に彼女の凄さを魅せられる
知力も私や狡噛、宜野座に劣らない程だし、運動神経も泳ぎ以外はソコソコ良い様だ…それに咄嗟の判断力も十分ある……入社当時は厄介な新人が入ったものだとばかり思ったが、ソレは間違いだった
『……朱ちゃんは、私の事どう思う?』
ティーカップに紅茶を注いで口をつけるなまえ
その一連の動作を常守はじっと見ていたがおそるおそる口を開いて言った
「なまえさんは……素敵な人です…」
常守にとってなまえは憧れだった…
大学生の頃たまたま大学の近くで事件があった。友人達と一緒に事件現場を見に行った時、雨の中、執行官らしき人物達と話しているなまえを見た。当時は誰だか分からなかったが、ただ彼女を見て思ったのが綺麗だと言うこと…。仕事をする女は美しいと言うけれど、ソレは本当だった。
「…私、まだ学生だった頃になまえさんを見かけたことがあったんです……。その時のなまえさんは凄く綺麗で、私…見惚れてました……」
真っ赤になって俯く彼女の短い髪を手を伸ばして撫でる…。最初は驚いた様だったがすぐにされるがままになった彼女に言う
『ありがとう……、貴方も十分素敵よ、朱ちゃん』
「えっ!?そんなことないです!!!なまえさんのほうがずっと素敵です!!」
私に詰めよって言う彼女に驚いきつつも、謙遜する彼女を優しく撫でる
『私は、嘘をつかないわ…。私にとって貴方は大事な友人よ』
そう言うと彼女はショックを受けた顔をして、また俯いてしまった
私はおろおろしながら彼女に声をかけた
『…朱ちゃん?』
「そう、ですね…。私もなまえさんは大事な友人で憧れの人です……。今日は、ありがとうございました…紅茶、美味しかったです……」
スッと立ち上がり壁に掛けておいたコートを取って彼女は玄関に向かう
『もう帰るの?もう少しゆっくりしてても良いのに……』
「いいえ、これ以上お邪魔する訳にはいかないので…。それじゃあ…失礼します」
慌てて彼女に駆け寄ると早々と彼女は出ていってしまった……
『……朱ちゃん、私にとって貴方は大事な友人じゃなくて…大事な人なのよ……、ソレを言えない私を許して、最初で最後の私の嘘を許して……』
玄関にしゃがみこむ様に座る私の声はとても小さくて小刻みに震えていた…
常守はなまえの家から出た途端、玄関のドアに凭れかかった
「…なまえさん、私は貴方が大好きでした……大事な友人としてではなく、大事な人として……この思いを伝えられない私を許して下さい…」
常守の言葉は街の喧騒と共に夜空へと消えていった……
「『こんな、私を許して……』」
「愛とは時に残酷なモノだ…。愛故に、互いを傷付け、悲しみ、苦しめ、そしていつかは心を蝕んでいく……、一種の病気と言っても過言ではない、そうしても尚、人々は愛を求め平和を望み今を生きて行く……このシュビラに頼った世界の崩壊は近い……」
独りの男が夜の闇の中呟いた…