5 | ナノ
何年も見てきた親友の顔が、膨れて、破裂して、そしてあっという間に消えてしまう。
そんな夢をこの一週間何度も見る。


でもそれは夢じゃなくて、現実だったのだと気付くのはいつも夜明け前だ。


親友を失った日に私は気難しい、だけど優しい同僚も失った。
私が親友を撃った夜、帰ってきた私を彼はあの時のように…佐々山の死体を見つけて帰ってきた時の狡噛を見たような目だったから、私は急いで自分のサイコパスを測定した。大丈夫、濁ってない。全然心配ない。
私は宜野座に軽蔑されるのが嫌だった。何よりも、宜野座が独りになるのが嫌だった。

自惚れだ。きっと彼には私じゃなくても傍に居てくれる人がきっといる。そう信じたくて信じたくもない私の気持ちは一体どこにいるのだろう。

「…一人で帰るのか?」
「うん、いつも通りだよ。だって仕事は仕事だもの。平気だよ。」
「大丈夫か?」
「だから大丈夫だって。」
「今日は家まで送ろう。」
「いいよ、宜野座も疲れてるでしょう?悪いよ。」
「送らせてくれ。」

こんな頼み方をするのか、この人は。毎日嫌と言うほど顔を突き合わせてきたけれど、終ぞ下から物を頼む宜野座の姿を見たことはなかった。それに私よりも宜野座の方が苦しそうな顔をしてる。ここは素直に言う事を聞いておいた方がいいだろう。
多分それが間違いだったのだ。
数時間後、私は宜野座と体を重ねていた。


一週間で3回目だなんて、そんな自分に驚く。
親友の最期の瞬間から目を覚ませばそこには女の私ですら嫉妬しそうな白い胸板があって、私達はまるで恋人のように抱き合って眠っている。
あれからもサイコパスは濁らなかった。怖いくらいに一定で、ひどく下降した夜には必ず宜野座の腕に抱かれていた。あの日の夜も、それからも宜野座は何も言わなかった。私も何も言わなかった。
このままじゃいけない。これじゃセフレじゃないか。そんな関係を私は望んでいない。廊下ですれ違い様に2つ3つ言葉を交わして、たまに夕飯を食べに行って、なんでもないことで笑って。狡噛の時もそうだった。こちらの気なんてお構い無しに大切な人との関係の崩壊は突然やって来る。

あの日、なんで私は宜野座の誘いを断らなかったのだろう。あんな夜こそ独りで夜を過ごすべきだったのだ。どうして、私は。

「どこを見ている?」
「ごめん…起こした?」
「いや、目が覚めただけだ。」
「そう……朝、早く来ないかなってぼうっとしてだけだよ」
「みょうじ」
「なに?」
「……何でもない」

強く腕を引かれたら抱きしめられた。お願いだから、優しくしないでよ。どんどん溺れていく自分が恐ろしかった。
朝が来るまでの時間をいつもこの関係を断ち切る言葉を探すのに費やすのだけれど、いつも抱きしめられたら忘れてしまう。

優しくキスされたらもう終わりだ。
大丈夫、宜野座はひとりじゃないよ。
そう言えば宜野座の肩が震えて、抱きしめる力がもっと強くなる。そして私は宜野座の首に腕をまわす。

キスがもっと激しくなって呼吸ができなくなりそうだ。
頭の中で散らばる言葉も、何度も消えていった親友の顔もきっと胸の中に閉じ込めているうちに忘れていくのだろう。


そうして今は誰よりも孤独な彼と、誰よりもどうしようもない私の2人きりで、夜に溺れて居たかった。
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テーマ「人外ファンタジー」
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