5 | ナノ
※夢主妻子持ち設定
※猟奇的表現あり


赤と白。それから黒。
内装ホロが消え、病棟のような印象のありふれた一室。ぶちまけられた赤い血と、人体に納められていた中身。
べっとり血がついた椅子の傍に踞る青年は、公安局の到着に気付いて顔を上げた。青白く、返り血で汚れた顔だった。

「……っ!」

狡噛は、この男を知っている。


***


彼と出会ったのは、学生時代だった。未成年ながら、へべれけになるまで呑まされた若き狡噛を介抱してくれたのが彼だった。
お互いに交際相手がいたのにも関わらず、二人は関係をもった。
同性だから、という嫌悪は無かった。アルコールで麻痺した脳髄に、彼はひどく甘美に映ったのだ。

今思えば、とんだなし崩しな関係だ。脆く、そして秘めなければならないものだ。

就職するまでの数年間。狡噛は彼との関係を保持した。
彼は狡噛の就職を機に交際相手と入籍し、二人の関係は破綻した。ただ、たまには連絡を取り合うだけの関係に成り下がった。
今や幼い子供がいる彼とは反して、狡噛は彼女と別れてそれきりになっていた。


***


そんなある日、彼と同姓同名の人物から通報を受けた。向かった先には、陰惨な状況だけが広がり、狡噛たちを待ち伏せていた。

彼の妻と息子は彼の友人によって殺められ、凌辱の限りを尽くされていた。監視カメラには、妻の死体を犯す友人が映っており、ちょうどその時彼が帰宅したのだ。
カメラの中で、彼は椅子で友人を殴打する。昏倒した友人を何度も殴り付け、緩慢な動作で携帯端末を取り出し――先刻の通報に至るのだろう。
明白な犯罪。
だがしかし、腑に落ちない。何故友人は、こんなことをしたのか?

「ギノ、彼とは知り合いだ。俺に任せてくれないか」
「……わかった」
「助かるよ」

同僚から承諾を貰い、これで心おきなく彼の事件を暴ける。
征陸によって立たされた彼を覗き込む。虚ろに鈍く光を反射する瞳。

「……狡噛、」
「久しぶり」

彼の顔がくしゃりと歪み、それから自嘲の笑みに変わった。
それを見て狡噛は悟る。
あんなに頼もしかった彼が、あんなに凛々しかった彼が、あんなに綺麗だった彼が。
見るも無惨に打ち砕かれ、貶められ、穢されたのだと。


***


「ごめんね、殺しちゃった」

濁った瞳で彼は笑う。狂気を滲ませて彼は笑う。
彼の色相は濁ったままだ。

「あいつが狡噛とのことを知っていた。それをネタにして、迫った」
「そして?」
「カッとなったって理由になるかな?」
「……どうだかな」

なるべく昔の口調に忠実に、彼へと言葉を紡ぐ。

「だが、犯人は……振られてあんな行動に出たのか?」
「もしくは、好きな相手を死姦したかったとか」
「おい……そんな相手と付き合ってたのか?」
「さぁ。あいつ曰く、『誰しも秘めたるひとつまみの狂気を、開花するか否か』ってことなんだろう」
「仄めかしはあったんだな」

彼の友人は、面白い奴と知り合い、その受け売りだと語っていたらしい。

彼は唇を噛んだ。気に入らない事があったときの癖だ。やはり彼は変わっていない。

「……なぁ、狡噛。俺が殺したんだよな」

この手で友人を。
『秘密』によって妻と子供を。

「馬鹿言え。なら俺も共犯だろう」
「そうなっちゃうなぁ……」

彼の言葉を是とするならば、ふたりは共犯者になる。
秘めるべき関係を隠せなかったふたりの落ち度が招いた悲劇なのだから。

だが、狡噛はそれで良いとも思った。
悲劇がふたりのこころを縛り付け、誰とも交われなくする。彼はもう、他人のものにはならない。
もう二度と明るみになぬよう、ふたりの世界に閉じ込めなければならない。一生抱えて秘めなければならない。


それが共犯者ふたりの義務であった。
愛に狂った者の末路でもあった。
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