4 | ナノ
「伸元くんのことすごく好きだよ、」と口にすれば彼は少しだけ驚いたような顔をした。それは、その場の雰囲気のせいで・・・・思っていたよりもすんなりと出た言葉だった。
「・・・また、それか。」
一瞬表情を崩した彼は、すぐにいつものキツイ視線を私に投げる。

つれない伸元くんにももう慣れた。
「もう仕事行くの?」
ベットを抜け出て、着替える彼にそう尋ねると彼は「ああ、もう少ししたら。」とそっけなくうなづいた。綺麗なシルエットだな、と思ってみれいれば「お前もそろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」といわれる。
それはさりげなく「帰れ」と言われているように聞こえる。
いや、実際そう悟ってほしいのかもしれないけれど。
「久しぶりに会ったのに。伸元君冷たい。」
「優しさを求めるなら他の男のところに行けばいいだろう。」
そう口にした彼に、思わず笑ってしまいそうになる。

「嫌な言い方。」
「本当のことだろう。現に、お前がここにいることだって可笑しいってことを分かってるのか?」
伸元くんは怪訝そうに私を見た。
昨日の夜の、熱っぽい視線と比較するとずいぶんと人間味の抜けた目だった。
私があいまいに「さぁ、」と笑えば伸元くんは「道徳的に問題があるだろう、」と少し肩を落とした。
道徳的・・・か。

「恋愛関係にある男がいっぱいいるって?そういう事実のこと言いたいの?」
「他に何がある。」
「うーん、」
「考えなくていい。これ以上いってもややこしくなる。」
伸元くんはそう言った
私に付き合っている男がいるのは事実だ。そして、それは一人や二人じゃない。そして、伸元くんのことが好きなのも変わらない現実だ。
「気づかない相手も相手でしょ?」
「悪趣味だな、」
「でも別に貢がせてるわけでもないし、貢いでるわけでもないよ。」
「男はお前のおもちゃじゃないんだぞ。」
さすが公安局で働く彼はまっとうな人間だ。
人に説教するのもお得意のようだ。私は、伸元くんの小言が嫌いじゃあなかった。

「なんでだろうねぇ、」
「何が?」
「恋愛依存症っていうのかな?こういうの。」
「・・・・。」
「誰かがそばにいないとすっごい寂しくなるんだよね。」
ぼそっとシーツにくるまったまま、伸元君を見れば彼は「とんだ病気だな。」と呆れていた。
「疲れないのか?」
「付き合ってる男がいっぱいいるのが?」
「ああ。」
「疲れないように上手にやってるもん。」
そう笑えば、伸元くんは「なんでお前みたいな女に引っかかるのかわからんな、」と小声でつぶやいた。

自覚がないなら教えてあげたい。私に引っかかってるのは貴方も一緒なんだよ?って。
「伸元くん。」
「・・・。」
「大好きだよ。」
「そんな言葉、信じられるわけがないだろう。」
「いうと思った。」
よっこいせ、と体を起こす。窓の外にはすっかり太陽が昇ってた。端末で自分の色相を見ると、昨日よりも色相がきれいになってた。

「ねぇ、」
「・・・今度は何だ。」
「今付き合ってる男の人と全員別れるっていったら伸元君どうする?」
どう問えば、伸元君は「無理だろう」と笑った。
「どうしてそう思う?」
「依存症はそう簡単に治らない。」
そう言った伸元君に向かって手を伸ばす。
「来て、」
伸元君は本当は仕事はもっと遅い出勤だ。私にあった日の次の日は非番か、午後からの勤務だと知ってる。私が知ってることを伸元くんは知らない。伸元くんはベットの上に寝転んでる私に近づく。下から見上げる私は、彼の目にどんなふうに映ってるんだろうね。伸元くんの腕をひっぱって、その体を抱きしめる。文句の一つでも言いそうなものだけど、彼は何も言わない。そのまま首筋に唇を這わせればようやく「やめろ、」とストップがかかった。
「伸元君は私が好きなわけじゃないでしょ?」
そう笑えば、伸元君は「は?」と変な声を上げた。
「こんなどうしようもない女だから、かわいそうだなぁって思って遊んでくれてるんでしょ?」
「なまえ。」
「伸元君と違って、頭良くないしたいした職にもついてないし。」
「おい、」

「でもね、伸元君のこと好きだよ。」
「・・・・。」
「ごめんね。せっかく伸元くんはまっとうな人間なのに。」
私のせいで、きっと悪いことも覚えちゃうよ。と静かに語った。別の人間になりたかった。もっと別の形で出会いたかったし、人に堂々と言えるような関係を持ちたかった。
会うたびに愛しく思ったし、伸元くんに触れてもらうたびに、彼が本当は私をどう見ているのか知りたくなった。
せめて、伸元君が男にだらしない私をちゃんと叱ってくれれば・・・・。
「お前みたいなゆがんだ女なんかごめんだ。」って切り捨ててくれたらきちんと割り切れた気がする。他の男みたいにね。

私が不特定多数の男と交際してるっていう事実を知っても、伸元君は私に何も言わなかった。気まぐれに尋ねてくる私を限られた時間の中で満たしてくれる。私はそんな伸元くんに甘えていたんだ。私が他の男のところに行けないように、何かきっかけを作ってくれればそれでよかった。伸元君ならもしかしたら私の腐った考えをたたいてくれるんじゃにかって思った。
でも、そう人任せなことを思っている時点で結局私はダメ人間だったのだ。

「・・・・俺は、」
「ん?」
「お前が思うほど良い人間じゃない。」
そう語った彼の目は少し寂しそうだった。
「なんで?」
「・・・・。」
「伸元くんは優しい人だよ、」
そう言って伸元君の頬に手を添えた。

「もう、会わないよ。」
できるだけ、笑ったつもりだった。
「え、」
「伸元君にはもっと素敵な女の人が似あうよ。私みたいな野良犬じゃなくって。」
きっとそのほうが幸せだろう。もともと、住んでる世界が違うんだから。
「もう、好きだなんて言わない。伸元くんのことちゃんと忘れてあげる。」

だから、どうか。
「最後にもう一回だけ思い出ちょうだい。」
そんな私のわがままに、伸元君は少し黙ってからそっと私をベットに縫い付けるように押し倒す。けど、いくら待っても伸元君は触れては来なかった。
「本当にお前はバカだ、」
「・・・。」
「納得できるわけないだろう、」
小さい声だった。でも、優しい声だと思った。

「荒療治、だな。」
「何?」
「お前の病気を治すのは根気がいると思ってな、先が長くなりそうだ。」
「何言って、」
わけのわからないことを言い出した伸元君を見れば、彼は優しい目をしてた。
「いい加減、気づけ。」
そして彼は私の髪を優しくなでた。バカはあなただと思った。でも、嬉しかった。
「俺はお前が好きだから、受け入れてるんだ。」

その一言が、ずっと欲しかった。
他の男のところに行かないようにするための、鎖なんて必要ない。
その言葉一つで私は伸元のもとから離れられなくなるのだから。
「伸元くんに依存しちゃったらどうしようか。」
そんな冗談を飛ばせば彼は静かに言った。
「そんなこと、なってから心配すればいいだろう。」と。
彼らしくない言葉だと思いながら、彼に心酔することを許してくれたと思えば嬉しかった。

「好き、」
「・・・それは乱れた人間関係を整理してから言ってくれ。」
伸元はそうつぶやいた。まったくだ、と自分自身で納得して「わかりましたよ、」と了解してみた。伸元君は少し乱れた首元を整えてベットから離れていった。

(私に掛かる足枷が、どうか貴方につながってますように。)
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