4 | ナノ
私が生まれ落ちたときには既に、私の席は用意されていなかった。私は捨てられた。何故なら『目が青かった』から。
理由は分からない。先祖の隔世遺伝かなにかだったのだろうが両親は私を大層気味悪がり、捨てた。
それを拾って養女にしてくれたのが泉宮寺さん。彼伝いに引き会わされたのが、槙島さんだった。

日本人染みた顔に不釣り合いな碧眼。そんな私は槙島さんのことが好きになった。人間離れした美しさと明瞭な頭脳に私は虜だった。
彼に近付こうと努力した。本も読んだ。体術も鍛えた。カリスマ性だけはどうにもならないけれど、私なりの努力だった。
槙島さんは、私が高校に上がったころから『啓蒙運動』に私を使うようになった。
幸せだった。彼の力になれることが。彼の思考を世に知らしめるという行為が。

浮かれていた私は、活動から一年余りで呆気なく公安局に捕らえられた。やってしまった。後悔に苛まれながらの日々は徐々に私を殺してゆく。

槙島さんに、会いたい。

会わなければとうとう呼吸さえ出来ないほどに私は焦がれている。蓄積された感情で、胸が裂けそうだ。私の心臓よ、裂けておしまい……!
昔よんだ、ジュリエットの台詞が頭を過る。
つらい。声を聞きたい。触れられなくてもいい。傍にいたい。話がしたい。
ここから、出たい。

「もう、いいや」

独房の引き出しから、制服を取り出す。やや古風な紺色のセーラー服。それを身につけ、大きく息を吐いた。
槙島さんと読んだ脱走もののセオリーを思い出す。思考を『脱獄』だけに統一させる。……大丈夫、私はやれる。アラートを振りきって飛び出す。たしか、ここはほぼ無人な筈だ。大丈夫、言い聞かせては出口に向かってひた走る。

「邪魔!」

ドローンを蹴倒して進む。途中で鋏を回収した。疑問には思ったけれど、私はラッキーだと思った。
出口は動かないならば辿り着ける筈だ。公安局が来る前になんとかしなければ。

突然床が抜けて、私は落ちた。
操作されたのか。公安局の罠か。なんとか受け身をとってダメージを逃がすも、身体中が痛い。
立ち上がって暗闇に目を凝らす。ぼんやりと前方に白く人影が浮かび上がった。私は鋏を手に身構える。

「久しぶりだね、会いたかったよ」
「……槙島、さん?」

槙島さん。記憶と変わらない、綺麗な姿。その声。私だって会いたかった。
かたかたと鋏を握りしめる。……本当に、槙島さん?恐る恐る鋏の切っ先を彼に向けた。

「そうだ、それでいい」
「ひっ!」
「ここで疑わなければ、僕が君を殺していた」
「……っ」
「大丈夫、僕は槙島聖護だ」

そういって槙島さんは私を抱き締めた。
ぼろぼろと涙が溢れだした。優しく槙島さんが指で拭ってくれた。

「おかえり」
「ただいま、です」


久し振りに空を見た。また私は泣き出した。
深い紺碧が鮮やかな朱色に塗り替えられる姿を、ただ涙を流しながら見つめていた。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -