3 | ナノ
ほら、よく友達から恋人になる関係ってあるじゃん?そうした結果、やっぱり友達の関係が良かったなぁーって後悔して相手を傷つけちゃったんだよね。



そう語ったなまえはグズッと鼻を啜る。酒を飲んだ時の彼女の癖は泣き上戸になりやすいこと。それを知っている縢秀星は彼女の隣で「ふーん。」と相づちを打つ。泣いている女を相手にすることが苦手な彼でも、なんとなく扱いには慣れてきた。それよりも、何故彼女がそんな話をするのか縢にはよく分からなかった。



“恋”なんてものは執行官の彼には程遠い言葉のようにも感じられる。しかし、それでも“恋”というものの概念は知っている。



縢は自分よりも酒に弱い彼女が顔を赤くしながら喋るのを黙って聞いていた。顔が赤いといっても照れているわけではないから乙女を感じるわけではない。



酒が弱い者同士仲良くしよう。二人の関係はそこから始まった。なんとなく酔いにまかせて上司の愚痴を口にする度、二人の距離は縮まったような、そうんな気がしていた。



「秀星は良い友達だよね。」



ふと彼女がそんなことを言った。ボーッとしていた縢は思わず目を見開く。



「いきなり何だよ。」



冷や汗をかく彼をジーッと見つめるなまえ。酔いのせいで焦点が定まっていないが、それでも口だけは達者だ。



「秀星は私とずっと友達でいてくれる?」



潤んだ瞳が彼を見つめた。縢はドキリとした鼓動を無視するように「どうしてそんなこと訊くわけ?」と首を傾げた。



それにしても、大人になったばかりの二人に“友達”という子供っぽい言葉は些か違和感があるような、ないような気がする。



すると、彼女は一瞬戸惑ったように視線を落とした。ポロポロと涙が彼女の手の甲に落ちる。



「私ね、秀星とは友達でいたいの。」



そんな言葉と共に泣かれたら、まるで俺が悪いことしたみたいじゃん!と、縢は焦ってしまう。だけど、心の隅では彼女の泣き顔が可愛いだなんて思ってしまう。



縢は、この感情をなんとかしようと酒を飲む。なまえは言葉を続けた。



「だけど、最近、すごく秀星のことが好きなの。」



ブハーッと酒を噴き出してしまう縢。衝撃的な発言に彼は「え?」と目を見開いていた。



驚く彼とは反対になまえはどこかションボリした様子。それが酒のせいなのかどうなのかは分からなかったが、それでも彼女は堂々と縢のことを好きだと言ってみせた。



「それ、本気?」



酔ってるからでは…、と冷や汗をかく縢だったが、なまえはコクンと頷いた。



「私、秀星のこと、異性として好きなの。」



告白!?そ、そりゃ、俺だって彼女のことを異性として見てないわけではないけど…。縢は珍しく慌てている自分がいることに気づく。これは男として返事をするべきでは…。彼がそう思った時、なまえが口を開いた。



「だけど、凄く怖いの。」



怖い。その言葉に縢の慌てていた心は思わず静まった。



「怖いって、俺にフラれることが?」



涙を流す彼女の顔を見ようと、伺うように尋ねる縢に、なまえはゆっくりと顔を上げてふるふるとかぶりを振った。その表情はもう酒に酔ってはいない。



「やっぱり友達のほうが良かったと後悔すること。」



二の舞は嫌なのだろう。彼女の涙がそう語っている。だから、友達でいてくれる?と尋ねたのだ。恋人になって後悔するくらいなら友達でいるほうがマシだから。



だけど、それって些細な問題じゃね?と、縢は考える。



怖いと怯えていたって何の解決にもならない。自分の気持ちを殺してまで後悔を恐れてはいけない。本当は友達でいるほうが辛いくせに嘘をついてはいけない。将来を恐れるより、良い関係を築こうと思うべきだ。



それに何より。



「俺は後悔させたりしねーよ。」



縢は彼女の手を取って無邪気に笑った。その自信満々な表情になまえの涙も枯れていく。



友達や恋人の境目とか曖昧な部分はあるけど、きっと今よりも良い関係を築けるはず。だから。



「もう一回、ちゃんと告白してみれば?」



縢が促すと、なまえはニッコリ微笑んだ。



それにしても、フラれることではなく、友達のままでいたいと思ってしまうことを恐れるということは、結構自己を過大評価しているのでは?縢はそんなことを思ったが、酒に溺れ、自分に自惚れている(酒に酔い、自分に酔いしれたと言い換えてもいい)彼女とは是非とも友達以上の関係を築きたいと思った。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -