3 | ナノ
科学者として優秀であり社会的地位が高かろうとも、優れた親になれるとは限らない。優秀過ぎるが故に、探究心が強く、その愛情は彼等にとっては真っ直ぐなものだろうが、端から見れば歪んでいる。
例えば、自分の子供が大事故に巻き込まれ、助けたい一心で身体の大部分をサイボーグ化した。それだけ聞けば、悲劇的な家族だと周りから慰められるだろう。しかしそれは建前であり、事実はねじ曲がっているという事もよくある話。簡単な手術で治る程度の怪我だったが、実の親の手により身体は異形と化した。そして自分の異変に気が付きつつも、家族ごっこをしながら再び表の世界に戻った子供。しかし人々は僅かな違和感から子供を疎外し、シビュラの目も存在を許しはしなかった。子供もまた全てを悟り、家族という存在を見限った。


まぁ例えるまでもなく私の身の上の出来事で、理不尽な理由で人生を見事に転がり落ちた訳だが、そんな私を拾い上げたのもまたシビュラシステムであり、人だったというのも滑稽な話で笑いたくなる。





「宜野座監視官、私は手や足が千切れたぐらいじゃ死にませんので、どうか泣き止んで下さい。」

ベッド脇で静かに俯いていた顔が上がる。泣いてなどいない!と声を荒げるが、その目は真っ赤になり潤んでいた。執行官として彼と同時に入局してかれこれ一年経ち、それなりに彼を理解したつもりでいたけど、泣かれたのは初めてだ。そう考えると、他人を庇い身体がここまで損失したのも初めてかもしれない。でも、彼の命を守った価値はある。


「お前は何をやってる!死ぬつもりか!」

「私は死にませんよ、宜野座さんなら多分死んでたと思いますが。」

「口ごたえするな!」


そう言われても、もう終わった事なのだからどうしようもない。
…征陸さんの息子だと聞いていたけど、感情的になりやすいのは誰に似たのだろう。怒っているのはやはり私が彼を庇ったせいで、泣いていたのは私がこんな事になったせいだろうか。
長い沈黙の後、重たい空気が少し緩んだ気がした。少し間を置いて、心配させるなと呟いて再び俯く。
その言葉は有り難くもあり、同時に恐ろしくもあった。私は彼に、影響を与える存在になってしまったのかもしれない、そんな事は許さないのに。

酔狂な両親を恨めしく思う。私はもう人には戻れない、機械にも為りきれない半端者。身体を機械にしておいて、脳を、感情を、私という人格をどうして残したのだ。





この想いを捨てられたら、どんなに楽になるだろう
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