3 | ナノ
白くて大きな月がしずむころになっても宜野座さんは帰ってこない。これで家を空けるのは三日目だ。お仕事が忙しいのはわかっている。しょうがない事だってこともわかっている。でもやっぱり寂しい。そう思っているのはわたしだけなのかな。宜野座さんは何とも思っていないのかな。
すっかりめがさめてしまったわたしは西にしずむ月を見ながらそんなことを思った。



宜野座さんは職場の先輩だった。わたしは初めて会ったときにまっすぐで綺麗な眼差しに一目惚れをしたのだ。
いまとちがってまだ短かった前髪をよく覚えている。あの時に使っていたメガネのフレームの形だって鮮明に思い出せる。つくづく宜野座さんにぞっこんだなと自分に苦笑いをした。あの時の自分は怖いもの知らずだったのだ。監視官になって宜野座さんの近くにいられてとても嬉しかった。

それから月日がたって宜野座さんからの愛の告白には心底驚いた。だってわたしにはまったく感心なんてないと思っていたから。いつも見せるあの仏頂面を真っ赤にして好きだと言ってくれた宜野座さんに嬉しくてどうしようもなかったのにそれが言葉にできずに泣いてしまった。そんなわたしにあわあわとする宜野座さんは人生最大の動揺をしていた。


「あの時の宜野座さんは可愛かったな」
「俺に可愛かったときなんてない」
「え、宜野座さんっ?!」
「ただいま。それからお前も宜野座だろ。いい加減おぼえろ」
おかえりなさい、といっていつの間にかわたしの座るソファーの後ろに立っていた宜野座さんをみた。3日ぶりの顔にはやはりいつものように仏頂面がくっついている。眉と眉の中心にみえるしわが暗闇のなかでも確認できた。
「ぎ、ぎのざさぁああん。」
「お、おい!何故泣いているのだ!そんなに驚いたのか!」
なんだか底知れぬ衝動にかられ、わたしの涙腺はなんなく崩壊した。
「違いますよにぶちかああ」
「にぶちかとはなんだ」
心配した顔から怪訝そうな雰囲気がかおをだす。そんな表情のまま宜野座さんは優しく涙を拭ってくれた。わたしの涙が宜野座さんの指に吸い込まれていく。なんだかくすぐったい。

「…ふう」
「少しは落ち着いたか」
「はいすみません」
声をあげて涙を流したのは久しぶりだ。少し喉がかれてしまったがしょうがない。目は腫れてないといいのだけれど。
「それでどうしたというのだ」
「…目にゴミが入っただけです」
「ふざけた事をいうと怒るぞ」
「ご、ごめんなさい」
目が本気の宜野座さんがあらわれた。こわい。今でも職場でこんな顔してるのかな。咬神さんが大変だ。

「…ちょっと昔のことおもいだして」
「…」
「あれ、宜野座さん遅いな。今日もお仕事大変なのかなって」
「…」
「これで三日目だな。でもしょうがないよねって」
窓の外から鳥の爽やかなさえずりが聞こえてきた。もう朝らしい。窓のほうに目をむけるとほのかに明かりが灯っている。

何もしゃべらないでわたしの話を聞いてくれる宜野座さんに少し不安になった。
「…えっと、ごめんなさい。重いですか、はは」
「ばかもの。重くなどない。俺こそ悪かった」
「宜野座さんがあやまることではないですよ」
「あしたは休みなんだ。二人でどこか行くか?」
「いえ、お家でゆっくりしょてましょ」
わたしがそういうと優しく微笑んでくれた。腕をくんでいた両方の手で抱きしめてくれる。暖かい宜野座さんにからだをあずけ、わたしは重くなったまぶたを静かにおろした。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -