【※Psycho-Pass第1話のオープニングのシーンを想像して頂くとわかりやすいです。】
私と慎也は恋人だった。
慎也とは彼が監視官だった頃からの付き合いで、宜野を含む監視官三人でよく一緒に居た。
たまに私にちょっかいを掛けてくる佐々山君を二人が止めたり(と言っても慎也が佐々山君を殴るか宜野が佐々山君の書類を地味に増やしたりするか) 三人で喧嘩したり(主に慎也が宜野をおちょくって喧嘩になり、私が止めに入るが私に被害が来て三人で喧嘩する事になる) 一緒にお酒を飲んだり(お酒が弱いくせに宜野が何杯も飲むから慎也と二人で必死に止めたり)など、色々な事があった。
いつまでも、三人で居られると思っていた。
でも、佐々山君が死んで慎也が執行官になってしまい宜野は前より笑わなくなり、三人で居る事は無くなってしまった……。
私はどうなったのだろう?
何か変わった?
何か出来た?
何か護れた?
答えはNOだ。
佐々山君の時も
犯人を追って見失い、宜野が慎也に戻るように必死に伝えているのを聞いていただけ…。
慎也が執行官に降格した時も
彼を支える事が出来なかった……。
慎也には貰ってばかりなのに私からはナニもあげられない…。
彼は私を愛してくれた。
もちろん、私も彼を愛した。
お互いが求め合い、お互いを満たした。………筈なのに、私は彼が辛い時何をしてあげれた? 傍に居た?泣けない彼の代わりに泣いた? 抱き締めてあげた? キスしてあげた?
私が辛い時、彼がしてくれた事を自問自答した。
私はナニも出来なかった…。
あれから三年もの月日が流れた。
相変わらず私達はバラバラだった。宜野とは監視官同士で会話をするが仕事以外では全く会話をしない。
慎也とは別れてしまったが、お互い会話もするし執行官と監視官なので必然的に一緒になる。だが、少しだけ壁を感じる。
彼が別れる際に言った言葉を今でも覚えている。
「今の俺ではお前を幸せには出来ない」
だから、別れてくれ。そう言われて、私は頷く事しか出来なかった…。
でも、私は今でも彼を愛している。
別れて悔いはないか?
と問われれば『ある』と答えてしまう。
だけど、私達にはこれが一番の選択だ。
「君は別れて正解だと僕は思うよ………。
無力な君は彼に何をしてあげられる?
たった一人の愛した男を幸せにすることは愚か、支える事も出来ない君は別れて当然だ」
そう、私は今 愛した男の敵と共にいる。
『槙島聖護』それが彼の名前
佐々山君を殺したと思える男、
その容姿は美しいが中身は恐ろしいくらいに歪んでいる。
そんな彼と私は共にいる。
そして、今私達はノナタワーの最上階にいて、槙島聖護は階段に腰掛けている。階段が血で染まったように赤い。ここにはこの階段の他に赤いものが二つある。それは彼が読んでいる本と私が着ている赤いドレスだ。
「どうだい?最愛の男と久し振りの再会を果す気分は?」
『まだ会っていないのに聞くわけ? こんなにオシャレして会うものじゃないわ』
いきなり「これを着て」と言われて驚かない人はいないと思う。
しかもその理由が「愛した男に会うために着るんだよ」だと言うのだから。彼に会いたいがこれを着る必要性がよく解らない。
「君には赤がよく映える………。」
こちらを見つめて言うのだから、恥ずかしいが彼からはそんな意思が感じられない。
『よく言うわ、思ってもいないくせに』
「僕は嘘はつかないよ……、どうやら来たようだね」
彼が不意に私から視線を外し私の後ろを見た。
「なまえ!?っ」
慎也が私の後ろに立って居た。
肩で息をしているのを見るとここまで走って来たのだろう。彼はボロボロだ。あの免罪されるヘルメットの男を倒したと思える。
『……慎也』
愛しさに名前を呼んだ。
私は彼らを裏切ったのだ…。自分から槙島聖護のもとへ行った。
「久し振りの再会はどうだい?君の為に彼女をドレスアップしてあげたよ。喜んでくれたかな?」
嫌味のように言う彼を盗み見る。
「てめぇ、槙島ぁっ!!!お前か?なまえを連れて行ったのはぁ!!」
「残念だけど、僕が連れて来たんじゃないよ……。彼女が自ら僕のもとへ来たんだ」
二人の視線が私に刺さる。
私は慎也のほうへ向き直り、彼に言う。
『彼の言う通りよ、慎也』
じっと彼を見つめて言う。
「っ!?何でだっ?お前が槙島の所へ行った理由は?」
彼のその言葉に唖然とする。
どうして解らないの?
なぜ伝わらないの?
『理由?そんなの簡単よ』
冷静に冷めた口調で言う。
『貴方を愛していたからよ』
「!?」
驚いた表情でこちらを見つめている慎也。
すると、階段を降りる音が響く。
ーカン,,,カン,,,カン,,,カン,,,ー
「君はこんなにも彼女に愛されていた。そして、自分から彼女を突き放した………、人と言うのは面白い。相手の事を想いすぎて最悪の選択をしてしまう。でも、君には感謝しているよ狡噛慎也、君のお陰で僕は彼女を手にいれる事が出来た」
槙島聖護が私のすぐ後ろに立って私の肩に手をまわしながら言う。
すかさず慎也がドミネーターが向ける。
「手にいれる、だと?まだなまえは「彼女はもう、僕の物だよ。僕が命令すればなんだってするよ。なんなら見せてあげようか?君の目の前で」
槙島聖護は私に軽く口付けをする。
そして言った。
「彼の前で飛び降りてごらん」
「なっ!!!」
私は解っていた。彼が慎也の目の前で私を殺す事など。だから、彼は私にドレスを着せたのだ。
私は黙ってガラスの割れた場所に近づく。
「やめろっ!!! なまえ!!! 俺はお前の事を『慎也……………………愛してる』
私は慎也の言葉を遮って精一杯の笑顔で告げる。
私の身体は宙に投げ出された……。
「なまえ!!!」
慎也が手を伸ばして私の名前を呼ぶ。
ゆっくりとまるでスローモーションのように落ちる。
そして、そっと告げる。
『ごめんね、私は裏切り者よ』
貴方の想いを裏切った。
スッと涙が零れ、私の前に浮かんでいく。
私は落ちて行くのだと。
このまま、堕ちていく…………。
「君は死する時も美しいね。この世界の闇の中でも赤く……、まるで君そのものが愛のようだ。僕はそんな君に愛を求めていたのかもしれない」
その後、槙島聖護は狡噛慎也のもとから音も無く消えた。