3 | ナノ
世界がおわる、音がした。


「おい、」

「あれ…慎也。どうしたの…?いつもより眉間のしわ、濃いけど…」


ぼやぼやと歪んで見えるわたしの視界の中に、彼は立っている。はっきりと見えないけれど、それでも眉間のしわが濃いのはわかった。いつもの仏頂面、すこし悲しげだけど。きっとそれも、この歪んでいる視界のせいだ。


「…怒ってるの?」

「………」

「誰に…?」


慎也は何も言わなかった。こんなやつでも、それなりに長い付き合いだから、なんとなくわかるよ。


「これはさ、わたしのせいだよ…」

「…誰がやった」

「犯人に、決まってるじゃない」


慎也はわたしの傍にしゃがんで、熱を持つ腹部に、そっと手を添えた。おかしいね、さっきまで熱くて、痛くて、苦しかったのに、慎也が触れるだけで、穏やかになった気がするの。


「…慎也、」

「………」

「きっとね、わたしの世界は、もうすぐ終わるの」


あ、ちょっとだけ、目開いたな。驚くことでもないでしょう?刑事って、いつでも世界の終わりと背中合わせだもの。


「…すぐにギノに知らせてくる」

「待って」

「なんでだ」

「ひとりで…おわりたく、ないから…」


なんでだろ、最後の最後なのに、さっきよりも慎也の顔がぼやけて見える。


「…泣いているところを見るのは初めてだな」

「あ、…泣いてるんだ、わたし…」


未練なんてないよ、最後まで刑事でいれただけで、わたしは満足。これが走馬灯とかいうやつなのかな。昔の記憶がよみがえってくる。最近の記憶なんて、慎也ばっかりだ。
力の入らない腕を動かして、そっと、慎也の手のひらに重ねた。


「…ねぇ、」

「なんだ」

「わたしを、慎也の世界から、消さないでね」


慎也が、少しだけ、笑った気がした。
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