※志恩さん←女主人公の表現があります。
俺があの子の居場所になれたのなら。俺があの子のすべてになれたのなら。俺があの子の本当になれたのなら。そんな無意味なたられば。そればかりな俺は、結局あの子のためにしてやれることなんてなく。あまりにも無力で。せめても、とあの子の傍にいたけれど。
報われないなあ。俺も、あの子も、さ。
「なんで邪魔するの。なんでみんな私の邪魔ばかりするの!弥生もツネモリアカネも秀星も!嫌い嫌い嫌いぜんぶ嫌い!ううああああ!」
頭を抱えて蹲るなまえちゃん。声にならない叫びをあげて、言葉にならない呟きを呻いて。
俺は佇む。頬や首や腕のこの子からの掻き痕をひとつずつ愛おしく撫でて。そして少しだけ意地の悪い質問をする。ぜんぶ、嫌いなのって。志恩さんも俺たちと同じに含まれるのかって。
ただ、そうだよ、の肯定がほしかった。だけど、この子は否定するのだろう。懸命に。必死に。
「し、おん……さ……。違う……。違うちがうチガウ!違うの!志恩さんごめんなさい違うの!」
ほおら、やっぱりね(さっきのは愚問だった)。
「私、私は志恩さんが好きよ大好き。だからお願い嫌わないでお願いごめんなさい失敗しちゃっただけど嫌わないで……!今度はちゃんと始末するから志恩さんを縛る邪魔者を消すから!」
なまえちゃんは大粒の涙を目から溢れさせて希う。だから、嫌わないでって。
この子の望みはやっぱりすべて志恩さんで埋め尽くされていて、俺が入る余地なんてなく。
いつもいつも、俺の想いには行き場がない。さし延べた手も、広げた腕も、本当に得たいものは得られないまま空回り。
これほど虚しいことなんてあるだろうか。
屈んで、なまえちゃんの顔を覗く。相変わらず大洪水。俺は、次から次へと流れてくる雫を拭いながら、頬や額にキスする。志恩さんの名前ばかりのせる唇も、そっと塞いだ。抵抗はなかった。
そこからは何度も触れるだけのキスをして。この子に届かない愛してるを囁いて。ぎゅうっと抱きしめてあげた。
俺はここにいる。
俺がここにいる。
何度だって抱きしめてあげる何度だってキスしてあげる何度だって愛してるを囁いてあげる。だから今だけは俺を見てほしい。
「愛してる。」
今度は深く口づけてみた。なんだか哀しい味がした。
(依存しているのは誰だ。恐怖しているのは誰だ。拒絶しているのは誰だ。すべてはあの子。それでも俺は受けめるよ)。