3 | ナノ
今となっては首のみになってしまった彼女を追う。

「そんなに急がなくても首は逃げはしないよ」
コンクリートの壁に背を預け、槙島先生はおっしゃる。その様の教師らしくないこと!彼の目線の先にある臙脂の難しそうな本だけが、らしさを極めている。
えらく呑気なことをおっしゃるのね。先生のせいで、ここは正直者と異形の巣窟になってしまったというのに。そこらじゅうでおぞましい機械音が高々と主張していることに、まるで気が付いていないように振る舞うのですね。

残念ながら彼女は先程首をはねられてしまった。脚や手までも断たれてしまって、とても可哀想な最期だったと思うわ。

排水のプールに浮かぶ虹色の油が、どうも彼女を素敵にしてしまっていけない。重い水を掻き分け掻き分け、彼女を、すくいあげる。

「ところで君の首にある絆創膏、何を隠しているのかな」
いやな先生。生徒さえ答えがわかっている問題を投げかけるなんて、残虐性に決まりはないのね。


(今日の朝3時ごろだっただろうか)
起きると彼女は私の首筋に、腹を空かせたヒルのように強く吸い付いた。そして私を見下ろして
“とっても綺麗よ!ある小説家は赤い華だとか言うけれども、あなたのはまるで!”
まるで赤い星だとか言って、非常なロマンチストね。

猟師は相当なテクニシャンだったのかしら? 彼女はやっぱり断面すらも美しい。見たところ、踏みにじるように殺されたのは確かだろうけど。
水を含んだ億劫なスカートと、彼女を連れて、プールから地上へつながる階段の中腹に腰を下ろす。次いで私の二段上に座った先生には、いつになく不気味な雰囲気があったような気がする。

彼女の濡れた睫毛に指が震えた。同情に耽溺することが彼女の慰めになれたならどんなによかったろう。


「どうして君は王陵璃華子を助けなかったんだろうね。彼女の一部始終を君は見ていたのに。彼女は実は泣いていたのかも」
孤独に気付いた人は皆そんなにも嫌味が言えるようになるのね。できることなら私はそうであってほしくないけれども、彼女を侮蔑するのもいいかげんにしてほしいわ。確かに麦色の瞳を見上げる。

「彼女は私と悲劇が好きですけど、私は彼女の悲劇にはなれないし。元より彼女と私は相容れなかったのかも。でも私、この子を迎えにきたんです。彼女の代わりはいないから..ねえ先生、先生にもいつかそんな人が見つかればいいですね」

すると先生は学校では見せないような、あたたかい笑みを私へ向けて手をのばし、
「とんだ勘違いだな。」
そう言って槙島先生は私の絆創膏に爪をたてた。

今となっては首のみになってしまった彼女を追う。

「そんなに急がなくても首は逃げはしないよ」
コンクリートの壁に背を預け、槙島先生はおっしゃる。その様の教師らしくないこと!彼の目線の先にある臙脂の難しそうな本だけが、らしさを極めている。
えらく呑気なことをおっしゃるのね。先生のせいで、ここは正直者と異形の巣窟になってしまったというのに。そこらじゅうでおぞましい機械音が高々と主張していることに、まるで気が付いていないように振る舞うのですね。

残念ながら彼女は先程首をはねられてしまった。脚や手までも断たれてしまって、とても可哀想な最期だったと思うわ。

排水のプールに浮かぶ虹色の油が、どうも彼女を素敵にしてしまっていけない。重い水を掻き分け掻き分け、彼女を、すくいあげる。

「ところで君の首にある絆創膏、何を隠しているのかな」
いやな先生。生徒さえ答えがわかっている問題を投げかけるなんて、残虐性に決まりはないのね。


(今日の朝3時ごろだっただろうか)
起きると彼女は私の首筋に、腹を空かせたヒルのように強く吸い付いた。そして私を見下ろして
“とっても綺麗よ!ある小説家は赤い華だとか言うけれども、あなたのはまるで!”
まるで赤い星だとか言って、非常なロマンチストね。

猟師は相当なテクニシャンだったのかしら? 彼女はやっぱり断面すらも美しい。見たところ、踏みにじるように殺されたのは確かだろうけど。
水を含んだ億劫なスカートと、彼女を連れて、プールから地上へつながる階段の中腹に腰を下ろす。次いで私の二段上に座った先生には、いつになく不気味な雰囲気があったような気がする。

彼女の濡れた睫毛に指が震えた。同情に耽溺することが彼女の慰めになれたならどんなによかったろう。


「どうして君は王陵璃華子を助けなかったんだろうね。彼女の一部始終を君は見ていたのに。彼女は実は泣いていたのかも」
孤独に気付いた人は皆そんなにも嫌味が言えるようになるのね。できることなら私はそうであってほしくないけれども、彼女を侮蔑するのもいいかげんにしてほしいわ。確かに麦色の瞳を見上げる。

「彼女は私と悲劇が好きですけど、私は彼女の悲劇にはなれないし。元より彼女と私は相容れなかったのかも。でも私、この子を迎えにきたんです。彼女の代わりはいないから..ねえ先生、先生にもいつかそんな人が見つかればいいですね」

すると先生は学校では見せないような、あたたかい笑みを私へ向けて手をのばし、
「とんだ勘違いだな。」
そう言って槙島先生は私の絆創膏に爪をたてた。
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