2 | ナノ
ことりとサイドテーブルにグラスが置かれたのだが如何せん体がついていかない。喉はからからに渇いていて、やわらかなベッドの上で寝返りを打てば掠れた呻き声が出た。
それを見かねた狡噛が弛緩しきった体を抱き起こし水を飲ませてくれる。正直な話、とても有り難い。ちらりとそちらを伺えば苦笑が返ってきた。

「そんな顔するならもっと加減ってのを覚えなよ」
「無理だな」

唇の滴を舐めとりながら呟けば、即答される。分かりきっていた答えに溜め息を溢し狡噛に向かい合った。

「狡噛がちょっと我慢するだけなのに」
「無理だな」
「すぐ無理とか即答しないでよ」
「無理なものは無理としか言えんだろう」

くしゃりと前髪を乱しながら視線を合わせる狡噛。わざとらしく下げた眉が何故か愛しいのはきっと俺が末期なせいだ。
『好き』と滅多に口にはしないけれど。同性なのだけれど。潜在犯で執行官同士なのだけれど。
様々な障壁を指折り数えたとしても恐らく彼の傍からは離れないのだろう。

「狡噛」
「なんだ」

ずるずると上手く動かない体を引き摺って狡噛の背後に回る。鍛え上げられた筋肉質な背中に点々と刻まれた爪痕が情事を想起させて悼まれない。自分がつけたものだとしてもだ。

「爪立てられるのって痛い?」
「痛みを感じない訳じゃないが……気にならないな」
「そう」
「どうした急に」
「なんとなくだよ」

爪痕を指の腹で往復し、点々とした赤色に吸い付いた。控え目なリップノイズと共にそこに赤色が広がる。
支配欲だとか所有権の主張だとかそんなのじゃない。ただ、確かめるだけ。狡噛と繋がったという事実を、狡噛が傍にいるという事実を、狡噛慎也という存在を。

「お前ほんと大丈夫か?」
「なんかあったとしても絶対狡噛のせいだから。いちいち言及すんな」
「……そうだな」
「うん、ほんと。なんとなくだよ」

そう呟けばもう寝ろと言わんばかりに逞しい腕が伸びてきて俺を布団に引き込んだ。柔らかさと温かな体温に包まれる。
眠ろう。きっと朝俺が目覚める頃には狡噛はとっくに起きていて、隣に温もりはないのだろうけれど。
それでも眠ろう。明日またこの愛しい男と過ごすために。
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