2 | ナノ
終わってから気づいた、大事な人の存在に。
そんなベタな内容の映画をついこの間見たっけ。伝えようとしたときにはもう遅かった。その人はどこか遠くへといってしまった。もう二度と触れることのできない、遠く遠くの世界へ。
ベタな映画だけど、どうしてか涙が出た。ディスクを借りる前に秀星に内容のほとんどを喋られてしまい、オチまで知っていたのに。
きっと、役者さんがとっても上手に演じてたから。それに引き込まれたわたしは完全に自分に置き換えて泣いていた。悲しくて、つらくて、胸が痛くなって。そんなわたしを慎也は鼻で笑ってたっけな。





誰かが話してる。何を話してるのかは分からないけど、わたしのすぐそばでわたしの知っている人が。ピ…ピ…と等間隔に鳴っている電子音ならはっきり聞き取れるのに。
身体が重たくて、瞼が上がらない。瞼を上げようとしても、真っ白な光が眩しくて何も見えない。
そうしているうちに、誰か一人の足音が段々と遠くなっていく。その音が心をすごく不安にさせる。耐え切れずに、朧気な意識の中で瞼に力を入れれば、すぐ隣でガタンという音がした。ゆっくり、ゆっくりと瞼を上げていけば、ぼんやりとした視界にはすごく心配そうな顔が映って。

「なまえ…」

その声が耳に入ったとき、わたしはやっと起きた。視界がはっきりして、金縛りのようにびくともしなかった身体がちょっとずつ動いて、それと同時に身体の色んな箇所が痛くなってきて。
それでも、目の前にドアップで映し出される慎也の安心した顔を見ると、嬉しくなって表情が緩む。

「よかった…本当に。」

心の底から零れたみたいな声でそう言った慎也は、わたしの頬へと優しく手を添える。
大きくて、温かくて…何かわからないけど、どうしようもなく一杯になった何かが心から溢れてるみたいで。ああ、わたし、ちゃんと生きてたんだ。

「……慎、也…」
「おはようさん。…気分はどうだ?どこか傷口以外で痛むところはないか…?」

優しい声のトーンで、慎也の指先は頬に、髪に、耳に、そっと触れていく。そんな慎也を感じるたびに、心臓がぎゅっと苦しくなって。

「傷口はまだ当分痛むらしい。サイコパスに大きな変化はないみたいだが、怪我の全治には大体2ヶ月ぐらいかかると唐之杜が言…」
「愛してる、慎也…」

さっきからずっと胸の中に溢れていた気持ちが、ふいに口から零れた。いや、きっとさっきからじゃない。ずっと、ずっと口にしたかった言葉。それを言えたわたしは少しすっきりした気分になったけど、目の前の慎也はおもしろいくらいにキョトンとしていて。

「どうした、急に…」
「ずっとね…言いたかったの。」

あの時…一度死を覚悟したときに、いつか見たベタな映画の主人公の気持ちが痛いほどわかった。あの日、簡単な任務中でドミネーターを所持してなかったわたしは、不運なことに別事件の連続殺人犯と出くわしてしまって。応援が来るまで何とか持ちこたえるつもりだったけど、犯人にはもう一人仲間がいて…その辺りからの記憶が曖昧だ。ただ必死に応援を待って、気づいたら地面に這いつくばってずっと慎也のことを考えていて。

「もうわたし死ぬんじゃないかなって思った時に、死ぬ前に慎也に伝えたかったってすごく後悔したの。」

愛してるって、あんなに伝えたくなったのは生まれて初めてだ。
執行官になった時に死の覚悟はしていたつもりだけど、本当に死ぬかもしれないと思った時に酷く恐怖を感じて。それは、死への恐怖というよりも、慎也ともう二度と会うことができないという恐怖だった。まるであの映画のワンシーンだ。
刺された傷が痛いだとか、そんなこと感じられないぐらい大きな未練がわたしを責めて。
あの時のことを思い出せば、胸がぎゅっと締め付けられて、痛くて涙が出る。

「馬鹿なこと言うな、お前は今ちゃんと生きてる。」

きっと、縁起でもない言葉に聞こえたんだろう。添えられていた親指の腹はわたしの目尻に溜まった涙を払ってくれる。
うん、と頷けば、少しだけ慎也はほっとしたように笑った。

「とは言っても、俺も人のことを言える様じゃなかったんだがな。」
「?」
「唐之杜には命に別状はないと言われたが、お前が本当に目を覚ますのか今の今まで不安だった。」

慎也の顔がだんだん近づき、トンと額がぶつかった。いつもクールな執行官の慎也が焦っているところなんて想像がつかないけど、きっととっても心配してくれたんだなって伝わってきて。

「心臓が破裂するかと思った。」

ちょっとだけ笑い混じりにそう言った慎也に、わたしもつられて頬が緩んだ。
ああ、嬉しい。わたしが思ってたより、慎也はわたしを大事に思ってくれてたんだって。

軽く唇が重ねられれば、とてつもない後悔なんか忘れてしまえるほどの大きな幸せを感じて。

「なまえ、愛してる。」


あの映画のお話はわたしたちには残酷すぎるね?
再び重ねられた唇は、深く、深く、わたしを慎也へと沈めていった。
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