2 | ナノ
「好きです!付き合ってください!」
「一昨日来やがれ。」


にっこりと笑いながら、日常茶飯事になりつつある会話をする。この男、縢秀星は、いくら私が冷たく突き放そうと、めげずに毎日やってくる。そうして玉砕してそれでもすぐに立ち直る。ほんと、打たれ強い奴だと思う。


「縢君も毎回頑張るわよねー。」
「そりゃあもう!振り向いてくれるまで来ますよ!」


志恩さんとの会話を聞き流して、自分の仕事に戻った。残念ながら休んでいる暇はない。この分析室には仕事が山積みなのだ。まあ主にあそこで喋っている上司の尻拭いなのだけれども。兎に角定時で帰るのが私の信条である為、今日も全力で仕事に打ち込むのだ。


「仕事ばっかりじゃなくて、たまには俺とも会話しましょうよ!」
「あんたと話してる暇があるならその分寝るわよ。」

背後に気配を感じながら、カタカタと手を動かす。この男は執行官だし、別段見られて困る作業は今の所していない。手を休める事なく、画面と睨めっこをする。仕事用の眼鏡を掛けて書類やら解析やらのデータを打ち込んでゆく。私はこの事務作業が嫌いではない。執行官のように体を動かす事は性に合わないし、どちらかと言えばインドア派である私にとっては、こんな適した職場はないだろう。まあ欲を言えばもう少し働いてくれる上司が欲しいぐらいだろうか。


「いつも思うんすけど、ほんと見やすい資料作りますよねー。」
「…別にこれぐらい普通よ。」
「いや、そうでもないっすよ?俺一番好きっすよ!」


縢はよくこう言う事を恥ずかし気もなく言ってくる。別段私のご機嫌を取ろうとして言っているのではないのだから、悪い気しない、と言えばしないが、それでも素直に喜べるほど私は若くはないし、正直者ではないのだ。私は彼に対して素直になった事などないのではないか。


「そう言えば!何かギノさんが聞きたい事があるって言ってましたよ?」
「宜野座監視官が?」
「はい、実は俺が呼びにきた係りだったりするんすよねー。」
「何でそれを早く言わないのよ!」
「いや、だって、」


耳にリップノイズが聞こえて、離れて行く彼に視線を合わせれば、にっこりと笑ってそれじゃあ話せないじゃないっすか、なんて言うから、私は慌てて彼の脚を蹴って逃走。何て事を言うのだろうか。彼が寄せる好意に気付かない程、私は鈍感ではないと思っている。だが、私は潜在犯であるし、ただの分析官だ。そんな私が彼と、なんてあってはいけない。あってはいけないのに、心の何処かでそれを望んでいる私も居る。本来なら隠しておかなければならない気持ちなのに、さっきの彼の行為のせいで、私の気持ちの蓋が開いてしまったようだ。

必死にきっと真っ赤になっているであろう頬を鎮めながら、監視官殿が居る部屋へと向かった。きっとこのまま行けば私はからかいの対象となるだろう。何とかして鎮めようとしている私の事を、彼が優しく笑って見ていたなんて、そんなの知らない。



いずれ連れ去ってやるから
(君が堕ちるまであと少し)
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