2 | ナノ
目覚めると自分のものではない広いベッドの上で、隣には昨夜熱を分け合った相手が氷のように冷たくなっていた。また、やってしまった。電話を手にし、履歴から発信ボタンを押す。

「槙島さん、助けて。」

自分の色相が濁っているのは知っていた。人を殺す度に愉悦に浸る。なまえは、自分に好意を寄せる男を殺してしまいたいという衝動が抑えられない。いつも気が付くと男は死体となっている。時には繋がったまま。誰も傷つけたくない、誰かの命を掌握したい。ふたつの相反する欲望と理性に押し潰されてしまいそうだった。いっそ狂ってしまえたら。
僕なら君に欲しいものを与えてあげられるよと、手を差し伸べたのが槙島聖護だった。場所と道具と手順と逃走経路とありとあらゆる手引きをしてくれた。 それだけではなく、なまえに惜しみなく甘い言葉を与え、ときにはお互いを求め、離れられないようにした。だが、彼の目の奥にあるものは愛情ではなかった。だからこそ今まで槙島に殺意を覚えることはなかったし、すっかり彼に依存していた。

「すぐに行くよ。どこにいるんだい?」

「ホテルにいるみたい。」

備え付けのメモ帳には都内で一番高級なホテルのロゴが印されていた。ふと、目を開けたままの男と視線が合ったような気がした。無意識のうちに途中で電話を切った。
(違う、もう彼には頼りたくない。こんなこと終わりにしたい。)
冷たくなった男を残し槙島を待つことなくホテルの部屋を出た。


息が切れるほど走ったのはいつぶりだろう。脚はもつれ、限界に達したところで今度は息を止め、物陰に潜む。真夜中の廃屋に足音が響く。恐怖に身をすくめじっと通り過ぎるのを待つ。あのホテルで目覚めてから今日一日、いくらでも逃げる時間はあったはずなのに、槙島がGPSから居場所を特定するのは時間の問題だったはずなのに、携帯を棄てずに街を彷徨っていた。自首しようか、自分で全てを終わらせてしまおうか、色々考えてみても答えは見つからなかった。何れにせよ、今は逃げなければいけない。
ふいに足音が止み、暗闇から白い手が現れ引き摺りだされた。

「ひっ。」

と、自分の口から情けない声が洩れる。

「なまえ、いくら逃げても何度だって見つけ出してあげるよ。」

槙島がなまえの身体に跨り、手首を押さえつけた。この細い男の身体のどこにそんな力があるのか、なんの抵抗も出来ない。背中に触れるコンクリートは硬く冷たい。

「や、だ・・・」

耳たぶから唇が下へと降り、首筋に触れる。吸われたかと思えば熱い舌が這う。身体の力は抜け、一切の抵抗をやめた。

「いい子だ。」

甘い言葉のはずなのにやけに恐ろしく感じる。

「なまえに殺された男たちは本望だったんじゃないかな。僕だって、君に殺されてみたい。」

それが愛の告白に聞こえてしまったなまえに、槙島は続けて囁いた。

「今の君の目はとてもゾクゾクするよ。」

もう一度、首筋にひとつ口づけられ身体は解放された。

君は、(うさぎの皮を被った獣)
まだ僕を愉しませてくれる。
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