1 | ナノ
※血濡れ描写あり

僕には色がない。
小さい頃から不思議と色づくことはなく、それは今も変わることなく続いている。
…白、無色、透明。認識されない色。この世界において色を持たないということは存在しないも同義であり、そこら中に張り巡らされた機械の目でさえも僕を認識することはできない。

世界から感じる疎外感。
…それはとてつもなく、まだ幼かった僕というひどく曖昧な存在を蝕んでいった。


***


全てが灰色に見えていた。そんな時、僕は一人の少女と出逢った。
彼女もまた色を持たず、世界から疎外された存在。
同じ孤独を抱えた彼女とお互いを求め合うようになるまでそう時間はかからなかった。

足りない部分を補い合い、共にあることで存在を確かめ合う日々。
満たされていく感情は僕に幸せを与えてくれた。
切なく暖かい日常、…だがそれは突如として終わりを告げる。



いつもの様にソファで本を読んでいると、焦ったようにこちらに走ってくる足音。その数秒後、バン!と荒々しく扉を開けたなまえが息を切らしながら入ってきた。


「…どう、したんだい?そんなに息を切らし」

「、つれてかれ、る…っ!」

「!」


尋常ではない汗をかき、苦しげに呼吸を繰り替えすなまえに、たたごとではない何かがあったと即座に察する。持っていた本を投げ、彼女の元へ駆け寄り落ち着かせるように背を撫でる。


「…何が、あったの?」

「っ、街頭、スキャナーが突然鳴り出してっ、白衣の男が近づいて、きたっ…」

「え?」

「それっで、いきなり、一緒に来てほし、って、…君みたいな存在を、探して、たって」

「…ちょっと待って、僕たちはスキャナーに感知されないはずだろう?」

「たぶん、私たちみたいなのをっ、見つける為の別のスキャナ、っ…断ったら、腕、掴まれて、無理やりっ…つれてかれそうになっ、て逃げてっ…それでっ…!」

「なまえ、わかった…もう大丈夫、大丈夫だから。」


話を進める度に恐怖で身を振るわせ、嗚咽を零す彼女の身体を壊さないように抱きしめる。あやすように頭を撫でてやれば次第に落ち着いていく呼吸。
…だがそれも束の間のものだった。あ…、と小さく声を漏らし恐怖によって再び震えだした彼女の視線の先を見る、と…そこには白衣を着た男が立っていた。


「見ぃーつけた」


そう言って男がにたりと笑い、呆気にとられた僕の腕から彼女を奪い取る。
身体を抱えられた彼女が必死になってこちらへと手を伸ばし、僕の名前を叫ぶ。

瞬間、僕の中の何かが音を立てて切れた。
…その後のことは覚えていない。


残されていたのは地面に倒れこむ男、その横で呆然と立ちすくむ彼女、そして血に濡れてもなお白く輝き続ける刃、それを握る真っ赤になった両手。

長年焦がれた色が手に溢れていた。
しかしそれは望んでいたものとは程遠く、僕を濁すただの汚れであった。
…滑稽だ、こんなものを求めていたとは。
そう心の中で自嘲気味に笑い、彼女の元へと近寄る。


「…ああ、汚れてしまったね、」


呆然とする彼女に頬についている血を拭い、視線を合わせる。
…その瞳に映る僕の姿には以前のような白さはもう、なかった。




その夜、僕は初めて彼女を抱いた。
汚れてしまった僕はもう以前のように戻ることは叶わない。
…それならいっそ、と、
まだかろうじて白さを保っていた彼女を汚して濁して…道連れにした。


下を見ると彼女が啼いていた。僕の名を呼びながら、…泣いていた。
その泣き顔が、いまだに頭にこびりついて離れない。




(ああ、あの時の僕はひどく愚かだった、)





*******


隣で眠る少女の髪に手を伸ばす。するりと指を通し、とかすようにそれを撫でていればゆっくりと開かれる瞼。


「…起こしてしまったかな」

「…いえ」


そう言って目を瞬かせる彼女の瞼にそっと口元を寄せる。…今日は随分と甘えたなんで、と続けられる言葉を口唇ごと飲み込めば、訪れる静寂。
そのまましばらく彼女を堪能し、大人しくなった顔にふと目をやれば怪訝そうな瞳と視線がかち合う。
ご機嫌ななめかな?とくすくす笑えば、さらに深められる眉間。
「…また、あのことですか」

「……あのことって?」

「しらばっくれないでください。…あなたがあのことを思い出した時は決まってこういうこと、するんです」

「…そう、だったかな」


以前、許してくれるのかと彼女に問うた事がある。
許すもなにも怒っていない、…あの時の自分達は幼く、愚かで、あのような事でしかお互いを繋ぎ止めることができなかっただけだ、と彼女は言った。

…だがそれでも僕は自分を許すことができずに、いまだにあの時のことを夢に見る。
その度に僕は赦しを乞うように彼女に触れる。…ああ、実に愚かしい、
そんな考えが顔に出ていたのだろうか、僕の思考を読んだかのように彼女が口を開く。


「無理に許さなくていいんです…あの時の自分を許せるまでに成長すればいい、」


それまで私はあなたの傍にいますから、そう微笑む彼女の顔が目に焼きつく。
ああ、君は本当に…

泣きそうになるのを堪え、困ったような笑みを浮かべながら彼女の頬を撫でる。くすぐったそうに目を閉じ、…もちろんそのあともずっと傍にいますけどね、と思い出したように笑う彼女の口唇を塞ぐまであと−−−、
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