1 | ナノ
※百合描写有

どうして同性同士、というか女同士では子供がつくれないのだろうか。
そもそも男女間では性細胞、生殖器、染色体等が違うのだから子供ができるのである。それが全く同じ形、性質をしている同性同士で子供をつくることなど不可能なのだ。そんなことは9歳で理不尽にも潜在犯というレッテルを貼られ、社会から隔離されながら11年間を過ごした私でも知っている。
と、まあ…いつまでもこんな不毛なことを考えていてもしょうがない。私は小さく溜め息を吐いた。

「なまえ、どうかした?」

自分にしか聞こえないように吐いたはずなのに、隣でマニキュアが乾くのを待っていた志恩さんにはバッチリ聞こえていたようだ。何でもないよ、と私は言ったが志恩さんは悩み事は肌によくないわ、と言ってマニキュアが乾いた方の手で私の頬を撫でた。指先の鮮やかな赤色に胸が高鳴る。

「ほら、言ってみなさい」

そんな優しい眼差しを向けられて私が折れないはずはなく、観念して話すことにした。

「どうして女同士では子供ができないんだろうって考えてて…あっ、いや、できないことは分かってるんだけど…」
「あら、子供ななまえにしてはまたませた悩みねぇ」
「子供って…」

志恩さんのその発言にむっとした。ついこの間成人を迎え、やっと志恩さんに子供扱いされなくなると思っていたのに。私もう20歳なんだよ?子供じゃないよ。そう言い返してもハタチなんてまだまだ子供よ、と軽くあしらわれてしまった。どうやら7歳という壁は大きいようだ。
納得のいかない私は、少し剥れつつ理由を聞いてみた。

「そうねぇ…」

志恩さんはそう言うと、頬に置いていた手をするりと顎下に移動させ、赤色を乗せた細い親指で私の少しかさついた唇を撫でた。艶めかしいその一連の仕草に思わず息を呑む。すると、ルージュで縁取られた口許がひとつの弧を描いた。

「んっ…」

見惚れる暇もないほどに性急な口づけ。志恩さんの香水の香りが鼻孔に広がり、微かにする煙草の味に背筋が震えた。狡噛さんのような男の人が吸う煙草は大嫌いだけれど、志恩さんの吸う煙草だけはどうしても嫌いになれない。
何度も角度を変えたり、志恩さんの長い舌が私の口内に侵入して嬲られ、2分としない内にもう息が苦しくなっていた。手元にある白衣をぎゅっと握ることで、やっと長い口づけから解放された。その頃には私の少しかさついていた唇はすっかり潤っていて、志恩さんのルージュがうっすらと乗り移っていた。

「キスひとつでこんなに顔を真っ赤にさせてちゃ、なまえもまだまだ子供よ」

反論したくともできない悔しさに更に顔に熱が集まる。それを隠すように志恩さんのたわわな胸に顔を埋めた。香水の匂いに眩暈がする。この眩暈さえ心地好いと思えるなんて。私って相当末期なんだろうな、と自嘲。

「志恩さん、好きだよ」
「あら。なあに、いきなり」
「急に言いたくなっちゃったの。…駄目かな?」
「全然」

ふふ、とひとつ笑みを漏らしてぎゅうと抱き着けば、志恩さんもぎゅうと抱きしめ返してくれた。『好き』という想いが溢れ返るのを抑え切れなくて何度も好き、と呟けば呆れられてしまった(それにしても嬉しそうな声色だったと思う)。
私は、大好きな人との子供を成すことはできない。けれどそれを嘆こうとは思わない。だって、私のこの子宮は何度口にしても伝えきれない程の想いでいっぱいだから。
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