一日、一日、と毎日が過ぎて。そうしてわんは大人になるんだなぁ、なんて柄にもなく思えば


「裕次郎の癖に何だよ、悪いもんでも食ったんばぁ?」


なんて、聞き捨てにならない言葉を凛に吐き捨てられる始末。わんだって少しはセンチメンタルな気分になるってーの。そう主張すれば、凄い気持ち悪いものを見る目で見られた。…絶対凛の前でそう主張するのは止めようと思った。




『裕ちゃん、どうしたの?』

「んー特にどうもしてないさぁ」

『眉間に皺寄ってるのに?』


クスクスと隣で笑うはなこはわんの彼女で、付き合ってもうすぐ2年。わんや凛に負けねーくらい気が強く男勝りな癖にこういう些細な所作がやっぱり女で、そういう所が堪らなくツボだったりする。


「凛に…」

『ん?』

「凛にな、」

『うん』

「こうやって何気なく一日過ごす度にわったー大人になるんさぁっつたら爆笑された」

『……………………』

「おい。ぬーんち、その反応は」


急に黙るはなこに視線をやれば何とも言えない顔を浮かべていて。凛みたいに爆笑してくれたらまだ気が楽なのに、黙りこまれてしまったら溜まったもんじゃない。そう思えばはなこは朗らかに笑いながらこう言った。


『何かね、』

「ん?」

『裕ちゃんの一日に私がいれるって思ったら凄い幸せだなって思うよ』


思いがけもしない反応に動揺が隠せない。何だよ、それ。そんな可愛すぎること言うなんて反則さぁ。はなこが「どうしたの?」なんて言いながらわんの顔を覗き込もうとするもんだから、右ほっぺたをむぎゅーって引っ張ってやったら涙目になりながら、わんの頭を思いっ切り叩きやがった。手加減なしででーじ痛い。


「でーじ痛いさぁ…!」

『自業自得!裕次郎なんて知らない!』


やべ!やり過ぎた?そう思ったときには隣にいたはずのはなこは全力疾走。わんの目の前で一度振り返りアッカンベーをしてから再度駆け出す。やーはわらばーか!


「捕まえたさぁ!」


テニス部レギュラーのわんが女の足に負けるはずもなく、追いかけっこはものの1分で終了。それでも息が切れ切れのはなこは相当バテていて、「やっぱり裕次郎は早いなー」なんて零してみせるから愛おしさが止まらない。


『こうやって毎日裕ちゃんと楽しく過ごせたら一日あっという間だねー』


はなこの無意識故の発言は質が悪い。それ以上のことを言われたらきっとわんの心臓が保たない。そう実感したや否やはなこの小さな唇にキスを落として次の言葉を飲み込んでやった。





永遠を足し算する
(一日一日が早過ぎて幾らあっても足りない)

20130204

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