こんな可笑しい話は後にも先にもないかもしれない。否、ある意味王道と言えば王道かもしれないけれど、私自身としては認めたくないというのが心の底からの事実だ。その癖逸る気持ちが止められない。あーヤバいなぁ…あれ、私こんなに馬鹿だっけ?


『〜ったぁぁ!!』

「やーがぼーっとしてるのが悪い」

『だからって殴らなくて良いじゃない!』

「やーがぼーっとしてるのが悪い」

『二回も言うなぁ!』


ヒリヒリと痛む額をさすれば、さも当たり前のように自業自得だと非情にも告げたのはクラスメートの平古場凛その人だ。右手には丸めた数Vの教科書を携えている。…それで私の尊い額を殴ったのか。


「で、やーは分かったのか?」

『え?』

「………」

『ごめん!考え事してた!だからその手を下ろして!』


危ないところだった。よもや再度額を殴られるところだった。なんとか平古場くんを制した私、本当によくやったと思う。


「はぁ〜…なーちゅけあびるから聞いてろ」

『はーい』


やる気なく返事をしたらジロリと鋭い眼光を寄越された。イケメンの凄み顔って迫力が軽く二割ほど増すから心臓に悪いと思う。聞いてなかった私のために再度説明をしてくれる平古場くんはなんやかんやで優しい。…乱暴だし痛いけど。題材は言わずもがな「どうすれば木手くんと両思いになれるのか」。何故なら平古場くんと話す内容ってそれしかないからだ。


『平古場くんって優しいなぁ』

「今更かよ」

『自分で言うなよ』

「……………」

『痛い!痛い!ほっぺた抓らないで!』

「やーが悪いんどー」


ただのクラスメートだった関係は、私が木手くんにラブビーム光線を送っているのを平古場くんにバレた時に変わった。その時の彼の顔をきっと私は何があっても忘れないだろう(あんなに楽しそうに歪めた表情は思わず怖気を覚えるほどだ)

「協力してやるさぁ」木手くんを影から見るだけだった私にとって、平古場くんの申し出は裏の魂胆こそ知ることが出来ないにしろ、これ以上にないほどメリットに溢れた申し出だった。それなのに今となっては何処で計算が狂ったのだか…。


『平古場くん、』

「ん?」

『恋愛って難しいね…』

「何言ってるんばぁ。ちばれよ」


木手くんが好きな気持ちは今でも変わらない。…というよりも、平古場くんと話す内に尊敬の情だったということに気づいてしまった。情けないことだが、それと同時に得たのは平古場くんを好きだと感じる気持ち。全くもって情けない。


『はぁ〜…』

「わんの幸せ逃げるからあっちいけ」

『…この場合私の幸せじゃないの?』


平古場くんが好きです。この言葉を言うにはまず、“木手くんが今私の想い人ではない”ということを伝えなければいけない。でもそうなれば人気者の平古場くんが私の為に時間を費やす必要性がなくなる訳で…どうにもこうにもいかないものだ。


「まぁやーにはわんがいるからなんくるないさー」


でもこの笑顔を遠くから眺めるのが辛いという思いが何よりも大きいから、今の関係を崩す勇気が出てこない私をどうか責めないで下さい。







キューピッド攻略法
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20130112

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