「…甘いですね」

『そうかな?』

「甘いですよ」


分からない、と言った風に小首を傾げる彼女は何処か白々しく見えた。慣れたように俺の頬を触る彼女はその瞳に俺を映してはいない。


「こっちに来なさいよ」

『そこに?』

「ええ」


俺の前に立つ彼女の右手を掴んでは俺の膝へと導く。突如増した重みにソファーはギシリと耳障りな音を慣らしながら耐えた。少し照れたように小さく笑いを漏らしながらも依然態度は変わらない。その慣れた仕草を、その表情を、歪めて壊して泣かせたいと思った俺は細い首を掴むや否や、白い柔肌に歯を立てた。


『…っ!』

「痛いですか?」

『永四郎どうしたの?』


今日はご機嫌ナナメだね。そう零しながら困ったように眉尻を下げて笑う彼女が酷く煩わしい。鼻孔をつく甘い薫りに目眩が起きそうだ。頬を撫でて指先で唇を辿れば気持ちが良さそうに目を細める。そのまま噛んだ首筋に舌を這わせば、ビクリと小さく背中がしなった。


「…甘い」

『永四郎そればっかり。私甘くないよ』

「…甘いですよ」


花のような甘い蜜を放つ彼女に惹かれるのは通りで、それに群がるのが俺だけではないと百も承知の上だ。全て分かっているのに尚求めてしまうのは、この甘美な甘さに酔っているからなのかもしれない。


「…はなこ」

『…っ痛いよ、永四郎』


少しでも残れば良い。体にも、心にも、彼女の存在に刻みたい。そんな邪な想いに掻き立てられながら、再度白い柔肌に痕を残した。歪む表情に歓喜しながら、もっと、痣のように強く刻み込んで離さない為に。


消えない痣のように
(消せないなら強く刻み込んで)

20130611

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