ただただ純粋な好奇心だった。どうなるのかな、っていうただその程度の気持ち。それ以上でもそれ以下でもない。裕次郎の自室には裕次郎と私の二人だけ。ベッドの上で組み敷かれた裕次郎は私を見上げては目を真ん丸くするけど、別段言葉を紡ぐことはしなかった。


『…抵抗、しないの?』

「してほしいならするさぁ」

『んー…どっちでも良い、かな』

「なら、くぬままでも良い」


面白くない。少しばかり混ざった感情に何事もないかのように蓋をする。私の両手は裕次郎の細くはないけど太くもない首筋に形を作るかのように回していて、力を込めてしまえばいとも簡単に裕次郎の酸素を奪うことが可能だ。裕次郎の両手はネクタイで縛ってあるから、抵抗らしい抵抗をされてしまえば其処までだけど、それでも簡単に拘束を外すことは困難極まりないことだった。きっと端から見れば異様な光景だ。

時計の秒針を刻む音が室内に響き渡る。カチコチ、カチコチ…普段は別段気にしないのにこれ見よがしに存在を存分に主張する個体は私と裕次郎の空間をまるで阻むかのようだ。


「…しねーの?」

『してほしいの?』

「わんは、どっちでも良い」

『…裕次郎は狡いなぁ』

「はなこには負けるさ」


真っ直ぐと射竦めるような瞳に吸い込まれそう。少し上目遣い気味に見上げる視線は何処か熱っぽくてその瞳に捕らわれて動けない。再度重ねるかのように催促の言葉を投げ掛けてくる裕次郎は、私の心境を見透かしているかのように一つ小さく笑みを浮かべては、甘い言葉を捧げる。それが酷く私の心を掻き乱すのだと感じたと同時に、無意識にこれ以上言葉を紡がせないよう私は徐に裕次郎に口付けた。


「…キス、したかったんばぁ?」

『………』

「もっとする?」

『…うん』


優しく触れるだけの口付けを落とせば、あとは情欲の赴くままだった。触れては離し、離しては触れて…気がつけば首筋に這っていた私の指先はこれでもかと言うほどに裕次郎の首に回していて、チラリと姿見で見た私はすがりつくかのように裕次郎を求めているのがとても滑稽だとまるで他人事のように思った。


「なぁ」

『なに?』

「…わんぬこと好きなんだろ」


悪戯に笑う裕次郎は何処までも私の心を掻き乱す。それは彼の“今”を止めてもきっとずっと変わらない、そう感じた瞬間自然に頭を横に振っていた。認めたくない、ただそれだけの想いで。

これ外して、そう漏らす裕次郎の言葉のまま行動を起こせばグルリと視界が反転。今度は見上げる形で裕次郎が私の視界いっぱいに広がった。


「…じゅんにややこしい奴」

『裕次郎に言われたくないなぁ』

「やくとぅあびたし。…わんから逃げられねーって」

『…そうだね』

「やしが良いさ。…やーはわんぬモンやし」

『仕方ないなぁ。…裕次郎こそ逃げないでね』

「たーにあびてるんばぁ?当たり前やし」


心を掻き乱す裕次郎が嫌で存在がなくなったら何か変わると思ったのに触れてしまえば呆気ないほど単純で、まさか此処まで捕らわれるなんて微塵も思わなかった。逃がさない、そう告げた瞳は最初から何一つ変わらなくて勝てる見込みなんか初めから皆無に等しかったのだと今更ながらに気付いてしまった。


『…でも好きじゃないからね』

「良いあんに。素直じゃねーはなこを懐柔すんのも楽しいだろうな」


底意地悪そうに口元を歪めるのを見てこれが裕次郎の本質なんだと感じた。始まりはほんの些細な裕次郎の気紛れで、まんまと罠に嵌まった私はきっとこれからも抜けられない。胸の奥で喘ぐ感情を恋と称するには余りにも苦すぎて、愛と呼ぶには余りにも甘い。そんな曖昧な感情に“私”が掻き乱されなくなるまで、好きなんて言ってあげない。

そう負け惜しみのごとく裕次郎に告げてやれば、酷く愉しそうに笑みを深めては再度私に口付けた。




気紛れの矛盾な結末
(認めたくない、でも離れられない)

20130411

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