陶器のように美しい彼を“私の物にしたい”と浅ましい願望を抱いたのは一体いつのことだったのか…最早、記憶を手繰り寄せることすら難しい。浅ましすぎるが故に貪欲で素直な私の感情は、持て余すことなく彼一人に捧げてきた。それがきっと始まりであり、終わりであったのかもしれない。


「何処見てるん?」


優しく垂れる瞳に灯る強い光。誰にでも人当たりが良く優しい顔をした彼が、本来の気性がとても獰猛であると云うことはきっと私以外知り得ない。「余所見はアカンで」と耳元で囁かれるや否や、首筋に走るチクっとした痛み。どうなっているのかは見ないでも解る、…朱く刻まれた所有印。


『ねぇ、』

「なんや?」

『怪我、大丈夫なの?』

「あぁ、…俺がそんなヘマする訳ないやん」


昼休みの保健室。偶然なのかはたまた必然なのかは知り得ないが、保険医は不在。驚くくらいに音がなく、白石くんと私だけの真っ白で閉ざされた空間。“怪我の手当て”をしにきたはずなのに、何故か私はベッドに縫い付けられていて。視界を満たすのは何処までも白い天井と私を見下ろす白石くん。こういう状況を作り出した当人は涼しい顔をしながら、いつもとなんら変わらず笑っていた。


『白石くんは意地悪だね』

「男の子はシャイやから好きな子程虐めたいねん」

『何処が、シャイ…!』

「…折角二人きりやのに、もうええやろ?」


何処がシャイなのか一から十まで説明して欲しい。私の反論は音に成ることなく柔らかい唇に飲み込まれた。上から降り注ぐ深く熱く溶け合う熱。初めは控えめだったにも関わらず、だんだん勢いが増していく。…呼応するかのように響く水音に鼓膜が犯される。


「…本真はなこは可愛えな」


うっすらと浮かぶ涙のフィルターの向こうで笑う白石くんはどんな表情より歪んでいて綺麗だと感じた。濡れそぼった唇が彼の色気を存分に引き出していて怖いくらいの美しさに寒気がしそうだ。


「俺の傍ずっとおってや」


初めに堕ちたのは私の方。でもそれは決して恋情ではなく、ただの“美しいものを愛でたい”一介の好奇心にしかすぎなかった。なのに今となっては…


「…愛してるで、はなこ」


陳腐でありきたり過ぎると思いながらも、トクンと跳ねる心臓は存外素直に出来ていると思う。これを愛と称するなら私は間違いなく彼を愛している。そしてこの感情は今後他の誰かに対して抱くことは到底出来ない、と何処か確信していた。


『私も…、』


彼の色に染められてはどんどん深みにハマっていく。知れば知るほど色濃くなっていく痛いほどの想いは、まるで内側から徐々に蝕んでいく甘い毒のよう。全身を駆け巡るほどの淡い微熱に酔わされて、彼の魅力に虜になる様はまるで“中毒”だ。それでも甘い毒に酔って踊らされても、彼だけが欲しい。…彼以外、要らない。


私は浅ましい想いを隠すように彼を引き寄せ再度深い口付けをした。





毒に浸水
(幸か不幸か彼だけに首っ丈)

20130211

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