「…やまだ??」


部活の途中、忘れ物をしたことに気ぃ付いた。明日必ず提出せなアカン数学のプリント。別になくても俺は別段構わないのだが、生憎の担当教諭は口煩いと四天では専ら有名の教師で。ただでさえ目を付けられているもんやから、これ以上付け込まれて堪るかと思い嫌々ながらにも部長に許可を取り教室に取りに戻ったのだが。


「寝とるんか…??」


向かった教室に一つの影。夕暮れで初めは何が居るんか判らんかったが、目が慣れてきた頃それは隣の席のやまだやということに気ぃ付いた。背中が定期的に上下していて寝息すら聞こえる。…これは完璧に寝入っとるな。


「おい、起きろや」


いくら揺さ振っても何も反応ナシ。隣の席のやまだは確かバレー部所属。俺までとは言わずとも二年でレギュラーを手中にした実力の持ち主で、バレー部になくてはならない存在だと誰かが言ってた気がするが…コイツ部活はどないしてん。確か今、大会前やろ。


「コイツ、本真どないやねん」


俺の隣の席はやまだの席。やまだの席の隣は必然的に隣なんやから俺の席になるんやけど、何故か知らんがコイツは俺の席で寝ている。業となんか、はたまた偶々なんかは知らんけど。溜息を吐きながら前の席に腰を降ろす。これがやまだやなかったら間違いなくたたき起こす。せやけど、俺がせえへんのはこれがやまだやから。


小柄でキャンキャン煩い犬の様なやまだは間違いなく疎ましかった筈やのに、気ぃ付いたら疎ましさが心地好さになった。何時から変わったんか俺ですら全く知らんけど。いつもやまだに意地悪いことしか言わんからやまだに目の敵にされている節があって、でもそれが可愛いとか思うとか本真に俺どっか可笑しいんとちゃうかと思う。(恋は盲目ってこういうことをいうんやろうか)


「(なっがい睫毛、)」


伏せた瞼から伸びる漆黒、ハリがある頬を薄い赤が色付いて、酸素を取り入れようとうっすら唇が開いてる。何故か言い難い感情が生まれた。無性に愛おしさが込み上げる。寝込みを襲うとか、フェアやないって判ってるけど…


「…無防備過ぎるお前が悪いんやで…」


伏せた瞼に一つキスを落とす。一回してしまえば止まらなくて、幾度も幾度も目尻にキスを落とした。…触れた部分から、俺の気持ち全部伝わったらええのに。


「にゃ-」


静寂な教室に響いた猫の鳴き声。驚いて視線をやれば、学校に住み着いてるという噂の小さな黒猫。確かやまだが頗る可愛がってると聞いた。一体何処から入り込んだのか。


「さっきのは誰にも内緒やで、」


猫に話しても理解出来ないと知っとるけど、一番はコイツに伝えたいから。


「なぁやまだ、俺お前が好きやねん」


本真は知っとるから。実はお前が起きてるってこと、いつから起きとるんかは知らんけど。拒否らんかったってことは期待しても良いってことやろ??あ、ほら。さっきより頬が赤なってった。お前が起きるまで何遍も俺はお前にキスするわ。


「早よ起きろや…」


起きたら答え聞かせて。そしたら今度は口にしたるから。顔を朱に染めたやまだが耐え切れずに起き出すんも時間の問題やな。






瞼に落とす最愛
(『(どないしよ…起きるに起きれへん!)』「そろそろ起きろや、…まぁ起きとるって知っとるけど」『え、嘘やん!?』「あ、起きた」『〜ッ騙したん!?』「…好きやで」『(なんて顔で笑うねんッそんな顔されたら…)あたしも、好き…』「…そんなん知っとるわ」『(あ、顔真っ赤になった)』)


20101126

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