『狡い、』
「何が??」
『蔵が!!』
「何でそない思うん??」


蔵狡い〜と隣で大騒ぎするはなこを見て零れる溜息。これは相手しやんと更に悪化するパターンだと度重なる経験により学んだ俺は、読んでいた雑誌を机の上に静かに置いた。あーせめてあと1ページだけでも読みたかった。


「で??白石がどないしてん」


向き合えば剥れっ面のはなこ。お前どんなけ不細工な顔しよるねん。それ女として何か間違えてないか、寧ろ全て間違っとるやろ。とかとか一瞬で思うたのは勿論俺の胸の中だけの話で。いつまでも口を割らんはなこにもう一度問えば、渋々といった形で言葉を零し始めた。


『くら、にな』
「うん??」
『蔵に、彼女出来たって話知ってる??』
「あ〜…」


はなこに言われて思い出すは朝練の時。そういえば財前が言いよった気がする。部長彼女出来たらしいっスよ、って。あの物ぐさな財前が知っていたのは白石やからやと思っていたのだが、どうやらはなこの話を聞くには少し違うらしい。


『蔵の彼女むっちゃ有名人やねん』
「そうなん??」
『羽山香奈ちゃんって知ってる??』
「確かはなこが前言いよった子やんなぁ」
『その子やで』
「何が??」
『空気読めや、阿呆…』


蔵の彼女がその子や。抱えた膝に顔を埋めながらボソリと答えた。…成る程、財前が知っていたのはそれでか。確かに学年一の美男美女が付き合えば、情報は爆発的に広がる。そしてはなこがふて腐れている理由がようやく判った。


「大丈夫か??」
『んな訳あるか』
「なん、本気やったん??」
『わかんない、』


でもむっちゃショック。少し目尻に涙を浮かべるはなこの頭を撫でれば、とうとう涙は溢れ出した。ぽろぽろぽろぽろ。タオルを差し出してやれば、そっと静かにはなこは顔を押し付けた。


『好き、やったんかなぁ??』
「ショックなんやろ??」
『うん…』
「ほしたら好きやったんやろ」
『いつの間に、やったんやろ…』
「知らん、」
『冗談や思うてたのに、』


あたし気持ち悪いなぁ。そう自嘲気味に笑うはなこの頬を思いっきり引っ張ったら何すんの、とキレられた。


『痛いやん!!』
「お前が阿呆なこと言うからやろ」
『何処が…!!』
「気持ち悪ないで」
『え、』
「全然、気持ち悪ないから」
『やって、あたし…』
「好きになったモンはしゃあないやん」
『謙也の癖に…!!』


無防備に泣くはなこを見て生まれてくる気持ちは愛おしさ。この震える両肩を抱ければ良いのに、決してそれは出来ない。恋を失ったはなこを見て気遣いながらも、狡い俺は細やかながらにも確かに居て。


「男とか女とか関係ない、好きになったら仕方ないやろ」


綺麗事は俺の下心を綺麗に隠す。男とか女とか関係ない、ただ好きなだけや。はなこが羽山を好きでも、俺はそんなはなこが好きで。はなこがどんなけ歎いても羽山は既に白石のモンや。


「…辛いやろ??傍に居ったるから好きなだけ泣けや。俺が支えちゃる」


こんな汚い俺でゴメン。でもどうしようもない位はなこのことが好きなんや。涙に濡れたはなこの瞳を見て、罪悪感を感じながらも歓喜に体が震えた。






屈折した恋心
(お前が泣く姿を見て喜んでる俺って最低やんな。でも、絶対に叶うことのないお前の恋がどうしようもなく嬉しいんや)


20101123



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