「知っとるか??」


愛情と憎悪は紙一重なんだぜ。彼が言い放った一言。それは夢の欠片もない一言であり、一番的を射てる一言でもあった。愛情も憎悪も相手に対し特別の感情を抱いているには変わりなく、それが正としての感情か負としての感情かの違いだ。数分前まで愛を囁いていた者に殺意を向けることなど、この世の中ではよくある話。愛憎は表裏一体と謂われるように本質的には同じ物なのであろう。


「のぅ…」


なるべく関わりを持たないようにしていたこの男と関わりを持ってしまったばかりか、何故か私は壁に追いやられ押さえつけられている。ギリギリと軋む両の手目の前の男、基、仁王雅治はニヤリと口角を上げ厭らしく笑む。


「お前さんは俺が憎いじゃろ??」


可笑しく、しかし酷く愉しげに私を見下ろす。まるで小さな幼子が新しい玩具を見つけた、そういう表情に酷似している。この男のファンクラブというやらには堪らない表情なのかもしれないが私にすればその表情は不愉快なものでしかなく……有りっ丈の憎悪を込めて下から見上げ睨み付けるが、“怖い顔じゃのぅ”と当の本人はどこ吹く風。私の抵抗は全くの意味を成さない。


「のぅ、やまだ」


いくら力を込めても手は解けず、抵抗をすればするほど圧力を掛けられる。何処までも底意地の悪い男は、全てを判った上での行動だ。


「俺、お前が好きなんじゃよ??」


知っていたか??、耳元で囁くようにそう言い放つ。ドクリ―…高鳴る鼓動。甘い声は腰にクル。この男独特の香りが鼻腔を突き、クラクラと思わず目眩が起きそうだ。




『…不愉快だわ』


彼女は吐き捨てるよう、また有りっ丈の憎悪を込めて俺を見る。否、正しくは“睨み付ける”なのだが。再度好きだと告げれば顔をしかめて返される。壁に追いやられてるやまだ、どちらが優勢か誰が見ても判ることなのにいつもと変わらぬ強気の姿勢が酷く愛おしい。力を込めればギリギリと悲鳴をあげる両の腕に眉根を寄せた。


『離して、』
「離さん」
『嫌いよ、…貴方なんか』


愛おしくて愛おしくて一層のこと壊してしまいたい。嫌悪感に染まる表情は表現し難い程美しくて、この気高い女をどうやって汚してやろうかと考えるだけで気分が高鳴る。


『…貴方を好きになることなんてない』


どうかその言葉を覆さないで。従順なお前など見たくないから。






嫌悪感≠愛情表現
(落ちてしまえばそれでオシマイ。そんな面白味のない女に成り下がらないで)


20100830

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