「好きじゃ、」


あまりに真摯な瞳で云うものだから、私の左の臓器は存外に早鐘を打った。ドクンドクンドクンって。だけどそんな夢心地もつかの間で、我に返り頭を振り否定する。ない、絶対にない。例え天変地異が起ころうとも、絶対に有り得ない。自身にそう言い聞かすにつれ、段々平常が戻ってきた。ああ何、焦ってたんだろう。馬鹿馬鹿しいにも程がある。だって眼前に聳え立つのは、彼の有名な詐欺師その人じゃないか。素直に耳を傾けてなんかやるもんか。


「のぅ、聞いとるんか?」


ええ聞いています、聞こえていますとも。そんな返答を胸に秘めながら黙々と作業に徹する。ガチャンガチャンと一定に響かせながら、バラけているものを一つにしていく。隣には既に一つになった冊子の山。文化祭間近な為か様々な仕事が生徒会長である自分に全て降り懸かって来るものだから中々やるせない。溜息を吐きながらも仕事に徹していれば、後ろからはギシギシと言わせながら不平不満を漏らす詐欺師が一人。ちょっと、あまり背もたれに体重を掛けると壊れるんだけど。ただでさえ経費削減の為、安い椅子を仕入れたというのに。


「やまだ、こっち向きんしゃい」
『え??』


振り向くとグイ、と仁王に引っ張られた。それと同時に感じた温もり。触れたのは…


『なっ……!?』
「おー良い反応ー」


唇に感じた柔らかな感触。微かに残る温もりが事実であったと物語っていた。一気に上がる体温。動揺からか満足に椅子に座ることが出来ずに机にぶつかり、折角作った冊子の山がものの見事に崩れ去った。だがそんなことより何よりも。


『何でこんなことするの、』


どうして何で、答えのない疑問が交錯する。飄々としていた仁王が一転、真摯な瞳で私を見据えた。先程と同じ真剣な瞳に、左の臓器は高鳴るばかり。


「やまだが好きやから」


流石に其処までしたら信じてくれるじゃろ??そう云うや否や、一つ唇にキスを落とす。ただただ呆然とする私の耳元に唇を寄せ、そっと一言零し出口へと姿を消した。


『ズルい…』


視線は仁王が消えた出口に捕われたまま、心は仁王に捕われたままだ。先程の言葉が頭の中で何度も何度もリフレイン。一体何でどうして…


“…知っとるんよ??お前さんが俺のことを好きなん。ずっと俺を見てたじゃろ。まぁ俺もお前をずっと見てきたんじゃが、良い加減素直になりんしゃい”


『知ってたんだ…』


納得がいかない。悔しい。心の中はそんな気持ちで一杯で、だけどそれ以上に感じたのは“ズルい”。明日からどうしようか、冊子の山に埋もれながら明日の我が身に想いを馳せた。






意地っぱりの恋模様
(やっぱり今更好きだなんて言えない。でも君が誰よりも大好きです)


20100722

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