ツキン、と胸が痛んだ。…痛んだ??ううん、本当はよく判らない。だけど何故か言葉には出来ない何かを感じていて、それが私にとってあまり良い感情ではないことだけは判った。今から現国の授業だけど気分が全く乗らないから、いつも通りのエスケープコース決定。いつも通りと言ってもいつもサボってる訳ではないから、悪しからず。


私のお気に入りの場所、屋上の扉を開けば視界一面にスカイブルーで、私の心とは裏腹に澄み渡っていた。吹き抜ける風が私の髪をそっと靡かせる。うん、やっぱり今回の色は良かったかもしれない。靡く自身の髪は陽光でキラキラ光っていた。誰も居ない屋上、最高の天気、にも関わらず気分が全く晴れない。原因??判れば苦労しません。ただ、間違いなくあの時あの瞬間から、今の状態になりました。お蔭様で気分は最高に最悪です。


『なに、コレ』


表現しきれない感情は複雑でやるせない。てか、なんか今すっごいAVを見て喜ぶ男の気持ちが判らなくなった。あんあん喘いでる女と必死に腰を動かして頑張る男。他人の性交を見て何が面白いのか判らない。気持ち悪いだけじゃないか。あ、まさかのお察し通りに私は見ました。しかもただの他人では決してなく、クラスメートである仁王雅治の濡れ場を見ました。相手の女は何処の女かは知らないケド、彼女でないのは間違いなく確かです。だって仁王の彼女はF組のマドンナの愛美ちゃん。まかり間違ってもあんなケバいメイクを施す様な子ではありません。別に純粋でもなければ処女でもない。だから、セフレだろうがなんだろうがとくと言って五月蝿く言うつもりは毛頭ない。にも関わらず、何この気持ち悪さ。モヤモヤ??イライラ??ズキズキ??どれも当て嵌まる様でどれも当て嵌まらない。とにかく気持ち悪いことこの上ない。


「お、やまだ」
『…仁王、』


屋上の扉が開く音に目を配せば、今一番見たくない人物がそこに居た。うわぁ、ナイスタイミング。いや、バッドタイミング??何にしても、なにこの妙なタイミング。取り敢えず今私が会いたくない人物ランキング、栄光の一位を獲得しているのは間違いなく仁王雅治この人だ。次第に自身の顔から表情が消えていくのが判る。無、今まさに無表情。にも関わらずそんな私とは対称的に、口角を吊り上げて嫌らしく笑むこの男は間違いなく一昔前に流行したKYなのではないだろうか。


「待ちんしゃい、逃げなさんなって」
『は、別に逃げてなんか…』
「人の顔を見るなり踵を返しておきながら“逃げてない”は可笑しい」
『じゃあ逃げないから離して。右手、痛い』


ギリギリ、ミシミシと悲鳴を上げている右手。か細い右手首には仁王の左手が巻き付いていて、段々赤みを帯びてきている。少なからず女の子を掴む力加減として、明らか間違っているであろう圧力。何なんだコイツは、私をラケットかなんかと勘違いしてるのではないか。もしくはアレか、自身の握力自慢を私の右手でして下さっているのか。自分でも訳の判らない思考を繰り広げながらも、未だなくならない胸の違和感。と、言うよりも本人を目の前にしたことにより不愉快指数が先程より増した気がする。


「…そんな泣きそうな顔しなさんな、」
『え、』
「さっきからずっとそんな顔しとる、」


悲しそうに眉間に皺寄っとるよ、と人差し指でコツンと。私が泣きそう??不愉快極まりないのに、そんな表情するなんて有り得ない。…そう思っていたのに。悲しい、哀しい、カナシイ。口にしたら予想だにもしない程、すんなりと私の中に馴染んでいく。ゆっくり、だけど確実に浸透するコレは間違いなく今の私の正しい答え。…私は仁王が他の女を抱いて悲しいの??


「お前、俺が好きじゃろ??」
『え??』
「俺が別の女とおるのを見るといつも泣きそうな顔しとる、」


無意識なんかもしれんが、そう言うや否やふわっと香る柔らかな香り。目の前には仁王の胸板で、腰周りに手を回されて引き寄せられた。急激に心臓が跳びはねる。私、仁王に抱きしめられてる??


「なぁ、」
『…何、』
「はなこって呼んでよか??」
『…良いよ』
「のぅ、はなこ…」
『…なに、』
「…好いとるよ、」
『私も…、』


好きだよ…、零すや否や力を込められた仁王の両腕に目頭が熱くなる。強く抱きしめないでよ、他の女と一緒にしないで。大切な彼女が居る癖にどうしてこんなことするのよ。なのにこの温もりが愛おしいと感じた。ああ、こんなこと感じるなんて私本当に仁王のことが好きなんだ。気付いた気持ちが切なくて哀しくて何処かやるせなくて、信じていいのか解らないこの詐欺師の言葉が何故か嬉しくて。縋り付く様に袖口を握り締め、何故か頬に涙が伝った。






見付けた気持ちは哀だった
(体だけでも良いから、そんな馬鹿な想いを抱いた彼女たちを馬鹿にしながら、今更になってその気持ちが解りました)


20100619

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