望む言葉はいつもいつもくれなくて。その癖、いつもいつも私は貴方に与えるばかりで。別にそんなつもりはなくとも結果的に見れば貴方の思う通りに行動していて。そんな自分が酷くもどかしく、また何故か情けなく感じたのは何時の頃だろうか。


『っはぁ、んぁっ!』
「まだ、じゃよ」


最奥を突かれては感じる痛みと快楽の狭間に揺れながら、手放すまいと握りしめる一縷の理性。本能に流されてしまえば楽なのに。それでもしがみついてしまうのは、私の細やかな抵抗と些細なる自尊心。この男の前では意味を成さないことくらい判っているのに、自分の唯一を確立したかった。


「のぅ…」
『な、に??』
「昨日なして柳生とおったん??」
『な、んで、』
「知っとるかって??」


偶然見たんよ、お前と柳生がキスしとるトコ。口角を吊り上げながら言うものの、琥珀色の瞳に感情はない。何処までも無機質で、猟奇的な瞳で私を見据える。ゾクリ、背筋に冷たい何かを感じた。


「柳生とのキスは良かったか??」
『別に、』
「ふーん…まぁ良か」


何処までも冷たいこの男は女を女と思っていない。自身の欲望の掃け口。それがこの男の女という生き物の定義。私も周りの女も例外はなくて、彼女という名目の有無の問題だけ。彼女と一口に言っても、私の他にも多数居るのだから、その名目すら無意味に等しい。


「良い声で啼きんしゃい」
『ぁ…っ!』


柳生君は優しかった。雅治との汚い関係を知りながらも、私を私として見てくれ、私の想いを誰よりも理解してくれた。魔が差した、というには特別過ぎたあの行為。相手を慈しむ様にする優しいキスを私は知らなかった。知っているのは気の赴くままに全てを奪う荒々しい雅治のキスだけ。だからなのだろうか。本来ならば拒まなければいけないのに彼を拒みきれなかったのは。好きだと紡ぎ出される度、柳生君の気持ちが痛かった。こんなに優しく想われたいと、愛した分だけ愛されたいと切に望んでいる自分に気付いてしまったから。


「のぅ…はなこ」
『な、に』
「お前は、逃がさんよ」


耳元で囁く様に呟いたかと思えば、突如感じた首筋の違和感。自身の首には何故か布が這っていて、見覚えのある柄に制服のネクタイなのだと判る。紐を辿れば雅治の両の手で、ネクタイは私の首に巻き付いている。


「柳生にはやらんよ、」


ギュっと引っ張られ奪われる気道。酸素を求めて口を開けば、埋めるように口づけられた。苦しい、苦しい、苦しい。薄らぐ意識の中視界に映るのは、何処までも口角を吊り上げて笑う雅治だけ。


『…まさ、は…』


意識を手放しながらにも思うのは、人として最低なこの男を私は今でも愛しているということ。想いの丈の全てが返ってこないのならば、このまま左の臓器を止めてしまっても良いかもしれない。寧ろ止めてしまいたい。報われない恋情は何よりも辛いだけ。


「…殺してやらん。ずっとずっと、俺の為だけに生きんしゃい」


雅治がそっと呟いた言葉。だけど意識を無くした私に届くことはなく、静かに辺りに溶けていった。





呼吸が出来ない
(貴方の想いで呼吸困難。一層のこと、酸素を亡くして逝ってしまいたい)


20100613

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