飄々として掴み所がなく、誰をも手玉に取り巧みな話術で翻弄する。ペテン師。それが俺の周囲からの評価。だけど、実際のところ全くもって違っていて。他人に自分の全てをさらけ出すのが怖いから、適度な距離感を保ってみせた。会話では何処まで触れて良いのか判らなくて、適当に言ってごまかしてきた。本当にただのそれだけ、それだけだったのに。


気が付けば自分は自分を鉄筋コンクリートよりも厚い鎧を自らコーティングして纏っていて。中からも外からも、いくら壊そうにも壊れない、防御力抜群の優れもの。


何せ周囲がそう評価したものは中々覆せるものでは決してなくて、渋々知らぬ内に自己のキャラクターは作り上げられていた。
そうなれば残るは陳腐な自尊心だけで、そういう俺を周囲が求めるのであれば、貫き通してやると珍妙な決意を胸に抱いたのは一体いつの話だったか。既に思い出せない程遠い昔の様で、懐かしさすら覚えてしまう。


それを今更になって悔やむのは、本当に情けない話なのだが、至って事実なものだからどうしようもない。


『仁王くんはあたしを好き??』


いつの日かはなこが投げ掛けた言葉。小首を傾げる様は、小動物を彷彿させる何かが確かに其処に在って。抱きしめたい衝動に駆られながらも、自分を抑えたのを覚えている。


好きに決まっとるよ、と返したのに対し、返ってきた答えは嘘でしょ、の一言。いつもよりやけに神妙な顔をしていたはなこは、今まで見たことがない程真剣だった。


『仁王くんは何を考えているのか判らない。ずっと傍に居るのに、こんなに近くに居るのに。いつも、いつも、仁王くんは遠い…』


いつも笑顔のはなこが泣いた。届かない関係は辛いと。愛すばかりで愛されないのは哀しいと。


そんなことはなかった。俺がはなこに捧げた想いの全ては、全部全部心からの真実で、大切で愛しくて仕方なかった。


なのに俺の溢れんばかりの想いの丈は愛しい彼女に1ミクロすら伝わっていなくて、最後には愛していました、の一言を残してさようなら。


全くもって馬鹿馬鹿し過ぎて、喜劇の一部の何かの様だ。ぽっかりと空いた胸の穴が何故か滑稽で、渇いた笑みの一つしか出てこなかった。


「仁王は馬鹿だよな」
「は、??」
「作り過ぎて自分がない」


いつもの様に丸井と二人、屋上でサボタージュ。傷心をごまかす様に紫煙を揺らめかす俺に対し、御丁寧に赤髪の級友はわざわざ傷口に塩を塗り込んできた。


「仁王は自分を出さなさ過ぎ」


もっとお前をさらけ出して生きろよ、と言い放つこの男は、何処までも自分に正直で。唯我独尊と捕らえられても可笑しくない程の行動を取るにも関わらず、何故か愛らしい見た目と反して酷く男前な思考を下すワケで、全くもって対照的に位置する俺にとっては少し眩しさを覚えた。


俺も丸井の様になれば大切な者を失うことはなかったのだろうか??あの時離れて行く手を掴めば、今の現状は変わったのだろうか??いくら考えても答えはなくて、ただ一つ判ることと言えば。


「俺はおまんみたいにはなれんよ」


俺はこの男の様に自分をさらけ出すことが出来ないということ。周囲が作り上げたキャラクターが、存外に自分と合っていた。きっとこれはもう直りそうもない。


これがきっと俺であり、周囲が求める俺の在るべき姿。捻くれた性分は他でもない、俺自身が生まれ持った自分だ。


ただ一つ望むのなら、どうか気鬱なこの胸の痛みが早く癒えることを求めてままならない。






天の邪鬼の憂鬱
(明日はきっと曇り後雷雨)

20100519

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