こんにちは、初めまして。切原赤也13歳です。最近疑問に思っていたことが確信に変わり、確信に変わったことがストレスになっていることがあります。どんなことかって??話せば長い様な短い様な、とにかく曖昧。でも端的に話すならとてつもなく短いです。


『きゃあぁあああ!!幸村せんぱいー!!真田せんぱいー!!柳せんぱいー!!仁王せんぱいー!!柳生せんぱいー!!丸井せんぱいー!!桑原せんぱいー!!』


俺の悩みの種は幼なじみ兼クラスメート兼彼女であるやまだはなこ。150cm満たない小柄な躯にも関わらず、まるでスピーカーを通したかの様な莫大な声を出しテニスコートに響かせているのは、間違いなく俺、切原赤也の彼女であると言い切れます。はなこが叫んでいるのは、テニス部の先輩方。あれ、俺の名前は??はなこは俺の彼女であるのに、彼氏である俺を完全総無視。始めは照れ隠しかと捕らえていたのも既に限界を迎え、今ではポジティブシンキングも空回り。これが毎日と続けば、流石に図太い神経の俺でも心がギシギシ痛みます。


「やぁやまださん」
『こんにちは、幸村先輩!』
「お前は相変わらず元気だな」
「うむ、良いことだ」
「俺の天才的妙技見てたか??」
『こんにちは、真田先輩!!柳先輩!!勿論見ていましたよ、丸井先輩!!むっちゃ格好良かったです』
「お前さんは素直やのう」
「仁王君止めたまえ。やまださん大丈夫ですか??」
「まるで変態じゃないか」
『へへへ、柳生先輩大丈夫ですよ、仁王先輩のぎゅう好きです。桑原先輩、仁王先輩は変態じゃないですよ??』


しかもただのファンならば杞憂にしか過ぎないのに、気が付けばいつの間にかはなこはテニス部の先輩たち全員に可愛がられていて。当事者である筈の俺は何故かポツンと一人蚊帳の外。今では誰も赦されなかったテニスコートへの侵入が唯一赦されている特別な存在だ。これだけ聞けば贔屓だ云々で先輩たちのファンから暴動の一つや二つ起きてもなんら可笑しくはないのだが、如何せんながらにはなこの場合のみ例外だ。はなこは小柄で肩まで伸びるふわふわな栗色の髪を持ち、ブラウンの大きな瞳で色白という、俗にいう人形の様な容姿。おまけに天真爛漫で無邪気なものだから男女問わずの人気者で、ファンの数は先輩や俺に負けず劣らず。寧ろはなこと付き合った時、暴動が起こり掛けたのは俺のファンではなくはなこのファンだった。


『先輩方お疲れ様です、』
「ああ、ありがとさん」


ふんわり笑うはなこは可愛くて、長年一緒に居ながらも左の臓器が高鳴るのは変わらない。でも彼氏である俺をそっちのけで、仁王先輩の腕の中で笑っている意味が解らない。普通俺の傍で笑わねえ??なんで仁王先輩の傍なんだよ、…って丸井先輩とジャッカル先輩もはなこの傍に居るし。俺、本当に彼氏なんだろうか??寧ろ幼なじみという立場も危うく、他人に近い位置にいるんじゃないだろうか??


「くそっ…」


俺のこと好きか、なんて口が裂けても言えなくて。それはチャチな自尊心とともに、好きじゃないとはなこ本人に直接的に否定されるのが怖いから。あーいつから俺こんなヘタレになったんだろ。…ってはなこにはいつも振り回されてる気がする。でも大好きなテニスと同じくらい大切で。寧ろ俺がテニスをこんなにも好きになれたのははなこのお陰だ。今の俺があるのは全てはなこが関係している。


「はぁ、」


零れる溜息は止まらない。だけど、いつの日か言われた言葉が今も俺の胸の内にある内は頑張らなければいけない。自嘲気味に笑いながらはなこたちを尻目に、打ち込みをしようとコートを一人後にした。


『はぁ…』
「どうしたの??」
『いえ、何も…』
「やまだが赤也のことを考えている確率99.2%」
「…ってほぼ100%じゃん」
「あながち間違ってはいないだろう」
「先程から切原くんをチラチラ見ていますし」
「まだ言わんのか??」
『はい…』


しょんぼり、といった雰囲気を醸し出すのは立海の中でも屈指の美少女。憂いを帯びた表情すら美しいのだから、神は本当に平等ではないとつくづく思う。いつも無邪気な彼女がこれ程までに気落ちするのは限りなく珍しい。…あることを除いては。


「良い加減言えよなぁ、」
『無理です、…だって赤也あたしのこと見てくれないもん…』
「全く…」


赤也はあたしのこと好きじゃないんですよ。涙目になりながら呟く彼女の言葉を聞くや否や、俺を含むレギュラー陣に浮かぶ苦笑い。あれだけやまださんの動向をチラチラ見ていた赤也が好きじゃない、というのはまず有り得ない。と、いうより射殺す勢いで睨みを効かせていたのだから、間違いなく赤也の想いは本物だ。(俺にまでするぐらいなのだから怖いもの知らずのエースだ)なのに怖いくらい鈍感なこのお姫様は、赤也の真摯な想いに気付くことなく今に至る。彼女曰く、幼なじみの期間が長すぎた為、赤也が本当に自分を恋情として好きなのかどうか解らないらしい。告白は一応赤也から。だが、俺ら付き合ってみる??とフランクな感じに言われた為、肝心の好きを聞けなかったらしい。


『もう嫌です…』
「負けなさんな、切原から好きを聞きたいんじゃろ??」
『はい…っ』
「なら、頑張りんしゃい」


懸命に彼女を励ますのは、我が部きっての曲者、詐欺師の名を馳せている仁王だ。別に下心があるワケではない。赤也と彼女のすれ違いに面白半分にチャチャを入れているのだ。仁王曰く、嫉妬をさせれば間違いなく好きと言う筈、らしい。それにまんまと従い俺らの傍に付き従う彼女はなんて可愛いのだろう。純粋な彼女は仁王に騙されていることすら気付いてはいない。


「なぁ…誰か良い加減まともなこと教えてやらねーと後々面倒臭くなると思うんだが」
「まぁ面白いから良いんじゃね??可笑しくなったらそん時だろぃ」


コートの端では邪心を打ち消すように打ち込みに励む赤也。隣には仁王に洗脳され、妙な方向に努力しているやまださん。


「精市楽しんでるだろ??」
「ふふ、そりゃあね」


いつになったら気付くのか。そんな親心にも似た想いを抱きながら、可愛い後輩たちを今日も見守る。






少年Aと少女の場合
(可愛い可愛い二人は今日も間違った愛情に囲まれています)


20100721

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