『人間って損得で動くモンよ』
「…それだったら優しさがねーじゃん」
『優しさなんて裏付け、下心を隠す為の言い回しに過ぎないのよ』


ふんわりと綺麗に笑うはなこを横目に、立てた膝に顔を埋める。丸井は泣き虫ね、そんな言葉を鼓膜に捕らえながらも溢れる涙は止まらない。損得で動いたら情がねーじゃんか。それとも何、女って皆そんな感じなワケ??だから簡単に浮気とか出来るのか。あー俺ってすっげぇ可哀相。可哀相過ぎてリアル馬鹿過ぎる。


「…うぅっ、」
『あー…泣かないの』
「女って、皆そ、うな、ワケ??」
『そうって??』
「損得でうご、くって…ぅ」


つい先日、好きで好きで仕方なかった彼女から敢えてのお別れ宣告を受けた。理由は他に好きな男が出来たらしい。それだけでも十二分に参るというのに、大変有難迷惑なことに周囲から聞こえる悪い情報。どうやら彼女は俺と付き合っていながら、自身の想い人と既に関係を持っていたらしい。もう謎が謎を深めるばかりで、俺の頭はショートしそうだった。ついこの間まで幸せそうにキスをして、お互いの気持ちを解り合う為に愛し合って、ブンちゃん愛してると泣きながら抱き着いてきた彼女は一体誰だったのだろうか。


『皆がそうかどうかは知らない。ただコレはあたしの持論なだけ』


甘く響くソプラノボイス。あまりにも優しく宥める様なその声に、涙は止まるどころか益々勢力を持って決壊する。俺って涙腺まで天才的じゃね??なんか限界を知らないって感じに溢れ出す水がなんだか笑える。はなこは右手を差し出し綺麗な正方形のハンカチで俺の頬を拭ってくれた。学年一、否、学校一の美少女と謳われるやまだはなこは些細な所作でも絵になった。瞬間的に吃驚し過ぎて止まる涙。それを見てまたふんわり笑いながら、ようやく涙が止まったね、と。


『でもあたしは嬉しいよ、』
「…え??」
『丸井が彼女と別れて』


頬を拭いながら聞き返すも浮かべる笑みは先程と代わらぬまま。だけど、はなこはいつもの雰囲気と何処か違っていて。不思議に高鳴る左の臓器に叱咤した。さっきまで失恋してメソメソしていたにも関わらず、見惚れるとか言語道断の話だ。そんな中はなこは俺を優しく抱きしめて、ねぇ丸井と零しつつ俺の左頬へと唇を寄せた。


「な、な、な…!?」
『狼狽え過ぎ。コレ、前払いね??』
「は!?前払いって…」
『あたしが忘れさせてあげる』


あたししか考えられない位にしてあげる。口角を上げて微笑むはなこを尻目に思わず唖然。するとはなこはそんな俺を見て笑いながら言った。


『だから言ったでしょ??人間は損得で動く生き物だって。あたしは丸井が好きよ。だから、傷付いた今に付け込むのが絶好の好機だと思わない??』


鼓膜を揺する音。それは甘く高らかで、これからの始まりを合図した音の他なかった。





傷口に塗り込む愛
(淋しさも悲しみも辛さも、全部感じられなくなる位に愛してあげる)


20100618

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