「なん、泣いとるん??」
『別に泣いて、なんか!』
「鼻汁零しながら言われても説得力なか」


ズピズピと鼻を啜れば、うわ、きたねぇ〜!と隣の紅いブタが失礼ながらに零しやがった。女の子として確かに自分の行動はどうかと思うケド、コイツらの発言もどうかと思う。


「なんがあったん??」
『フ、ラれたぁ…』
「あ、やっぱそうなん」


なんかそんな気がした、と言う仁王に対して、俺も俺も、と同意する丸井。悲しい想いとは裏腹に芽生える殺意は間違いなくこの二人の為だけにあるもので、今手元にあるのは授業で使用されるであろう筈の英和辞書。この辞書の角で数十回と殴打すれば、この失礼極まりない二人にアチラの世界にあるお花畑を見せることが出来るのだろうか。


「確かD組の佐藤だっけ??」
「アイツ男前じゃもんなぁ」
「別れたってことは噂マジだったんだ」
「ん、噂なんかあったか??」
「E組の女と放課後北館でヤッてたって話」
「おお、中々やりおるのぅ」
「だろ??まぁアイツモテるからなぁ」
「女が誘ったんじゃろうか」
「いや、案外佐藤からかもよ??」


私をそっちのけで盛り上がる紅白コンビ。なんだ、なんなんだコイツら二人は。傷心の私を慰める為にホームルームを抜けて屋上まで来てくれたんじゃないのか。何、この当事者でありながらの疎外感。と、言うより人の別れた原因を追求するとか本気何なの。こちとら限りなくタイムリーの話で切実問題なのに。


『ふっ…、うぅっ…』


あ、ヤバ。なんか凄く悲しくなってきた。なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのさ。普通もう少し労りの言葉とか慰めの言葉が在っても良い筈なのに、この仕打ちは酷いにも程がある。


「まぁまぁ泣きなさんな」
「佐藤なんかいくらでも居る」


佐藤くんが何人も居たら気持ち悪くて仕方ないでしょ。アレ、なんか違う??てか佐藤くんも何なのさ。私というものが在りながら、他の女とヤるとか本気ない。てかヤるにしてもバレない様にするのが浮気の筋ってモンじゃないの??そして自分の彼氏様と他人との交尾シーンを目撃した私は私でどうなのさ。よりにもよって最中に見るって、本当どんなけ運が悪いのよ。アレ、この問題って一体誰が悪いんだっけ、とかの考えにまで至った私は重症にも程があると思わないか。


「おーよしよし、泣きなさんなって」
『だから、泣いて、なんかぁ!』
「鼻汁零しながら言われても説得力ねぇって」


頭をポンポン、と両脇から撫でる紅白コンビ。今更、なんだなんだ。優しくしても何も出ないんだからな!とかとか、心の中では思う癖に、傷心中の自分は存外に正直で堰を切ったかの様に更に溢れ出す涙。


『好き、…だったの』
「ん、」
『佐藤くん、が』
「知ってるぜ」


結構軽いノリから始まった関係にも関わらず、自分はどうやら彼のことが大好きになってしまっていたらしい。涙は零れる零れる。もう流れ過ぎて何が悲しいのか判らないくらい。


『好き、だったんだからぁ…』
「やまだ、判ったから」
「でも俺は嬉しいんじゃケド」
「お、俺も俺も」


え、と言葉を零す前にその言葉は飲み込んだ。…と言うより、仁王によって飲み込まれたという方がきっと正しい。


「あー!仁王何してんだよ!!」
「何って、抜け駆け??」
「確実抜け駆けだろぃ!!」


思考が正しく働かない私を余所に、目の前でヤイヤヤイヤと言い争う仁王と丸井。呆然として二人を暫くの間眺めていると今度は丸井が私に口づけてきた。


「丸井も人のこと言えんやん」
「馬鹿言え、お前が先にしたんだろ」


もう何がなんだかわかんない。ただ一つ判るのは二人が私にキスしたことだけで、それが尚一層物事を難しくこんがらがせた。なんで…、小さく零れた言葉だが二人にはしかと聞こえたようだ。



「何でも何も…、」
「好きなだけじゃ」


俺も丸井もお前がな、と続けた仁王、それに同意するかの様に頷く丸井。え、好きって…誰が誰を??この二人が…私??うーわ、絶対ないわぁ。この間5人目の彼女に平手打ちされた銀髪と、部室塔の裏でお盛んだった所を真田の裏拳で中断された赤髪が…私を??確実ないない、有り得ないにも程がある。


「うーわ、有り得ねぇって全面的に出してるぜ、コイツ」
「なして??俺ら愛しとるのに」
『いや、確実有り得ないだろ』


外見的には超絶逸品ではあるが、行動を見る限りでは人類と分類していいのか悩む程の鬼畜生。女を女と思わない、寧ろ性欲処理機としか認知していないコイツらは間違いなく鬼畜生だ。且つ、2年間悪友として傍に居たが、私を女扱いしたことなど一度足りともない。そんな二人が私を好き??有り得なさ過ぎて笑える。


「うわーまぁくん傷付くわー」
「うわーブンちゃんも傷付くー」
『気持ち悪いからヤメて』


なに、まぁくんにブンちゃんって。14・5にもなる男がそれってどうかと思う。あー何でこんな訳が判らないことになってるんだろう。とかとか思っていたら、何故か視界が反転。


『…ぇ、』
「おー良い顔」
「こういうのってなんか良いな」


仁王が私に覆い被さり、丸井が髪にキスをした。え、え、何今の状況。私、押し倒されてる??


『え、え、え、』
「おー慌てとるのう」
『そりゃ、慌てるでしょ!』
「良いじゃん、俺ら上手いぜ??」
『上手いって何がよ!!』
「何って…ナニ??」


おいおいおいおい、本気で言ってるのか。何これ、私かなりピンチじゃない??何で押し倒されてるの、しかも二人に。…なんか私、踏んだり蹴ったりな気がしてきた。


『も、うヤだ…』
「あ、また泣き出した」
「おいおい、マジかよ」
『何で泣かない、と思う、のよ』


本当に理解出来ない。私が押し倒されて喜ぶとでも思うのか。好きな人以外嫌だ。どっかの誰かさんたちと違って誰でも良い訳じゃない。私を本当に愛してくれて、私が本当に愛した人しか嫌だ。


「冗談じゃけぇ泣かんで??」
「あー…悪かったって」


本格的に泣きに入った私に焦り、献身的にあやしに掛かる二人。安堵から力が抜けた私の体を軽々と抱き上げ起こしてくれた。背中はまだジンジンと痛むが、気分的には大分マシだ。


『馬鹿仁王!!阿呆丸井!!』
「だから悪かったって、」
『本当に怖かったんだから!!』
「スマンって」


また鼻が詰まってきた。ズピーと鼻を啜れば、うわきたねぇ、と丸井が零しやがった。だから聞こえてるんだってば。


「やまだ、」
『…なに』
「さっきのは冗談じゃケド本気じゃから」
『え??』


涙を拭いながら振り向けば不敵に笑う二人が居て。そっと私の頬を撫でた。


「俺ら、本気じゃから」


仁王がそういうや否や、良かったじゃん、俺たち佐藤より良い男だぜ??と丸井が笑う。


「絶対落としてやるから覚悟しとけよ」
「お前の好みの方を選びんしゃい」


間違いなく幸せにしてやる、とハモる紅白コンビに目眩を起こしそうになった。うん、私は彼氏と友達を今日一日に無くした。悲しみを通り越して、なんかどうでも良いやと思った今日この頃。






一体どちらがお好みで?
(幸せにするっていうなら、私以外の女の子全て切ってから言ってみてよ)

20100528

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