「これで終礼を終わる。解散」


淡々と告げる安里の一声により今日の授業は全て終わりを迎えた。安里の声を鼓膜で捕らえるや否や、ザワザワとざわめき始める教室。部活の準備をする者、委員会に向かう者、寄り道を企てる者…教室内は各々の予定を満たすべく、一人また一人と教室を後にし、気が付けば放課後特有の空気を醸し出し室内は閑散としていた。


「げっ…わん、委員会やっし」

「じゅんに?」

「じゅんに…でーじ面倒臭ぇ」

「ははっ、ちばりよー」


今日は部活が休みで久しぶりに凛と佐世保バーガーを食べに行こうと思っていた矢先、美化委員の召集が掛かったのが終礼終えて直後の話。


「あ〜くそっ!へーく言えよなぁ!」


急遽委員会から呼び出しを食らいぶつくさと不満を零しながらもノートと筆箱だけ握り締めて教室を後にした凛を見送ってから早30分近く経った。「すぐ終わるから待ってろ」と言われたものの未だ凛自身の影はない。

別段予定がある訳ではないから凛を待つのは全然良いのだが、如何せんながらに暇だ。いつもなら誰か数人が教室に残ってたむろったりするのだが、生憎今日は誰一人残ってはおらずわんがポツンと一人。…タイミング悪いやー。時間を持て余しながら、くあ、と欠伸を一つかみ殺しつつ教室内を見渡せば視界に入るわんの前の席。


「(結局今日は無理だったさぁ)」


今日は終始やまだの周りにはクラスメートの人集り。“後で話そう”といったもののやまだに一切近寄ることが出来なかった。わざわざ人集りの中に入ってまで話したいとは到底思わなかったし、正直何を話せばいいのかも全く解らなかったというのが本音だったりするのだが…

人集りの波は収まることなくわったーの周りまでクラスメートが押し寄せるものだから、わんと凛はほぼ休み時間は教卓周りで避難することを強いられた。…転校生パワー恐るべし、と訳分からないことを思ったのはここだけの話だ。

そんなこんなでしょうもないことに思考を巡らせていたら、廊下に響くペタペタという足音。やっと凛が帰ってきた。ようやく佐世保バーガーにありつける!そんなわんの思惑を知らず、閉ざされていた前のドアがガラガラと音を立てて開いた。


「おい、凛!やー遅過ぎるさー!…って、あい…?」


少し語彙を強めながら言い放ったのだが、視界に捕らえたのは自身が思い描いた人物とは到底かけ離れていた。…淡い髪色が風に攫われふわふわと揺れている。扉を開けた本人も教室には誰もいないと思っていたのか、大きな目を更にまん丸く見開いて驚いている。


「…やー、ぬーんちいるんばぁ?」


卸したばかりであろう、まだまだ馴染まない制服が何処か新鮮だ。柔らかく笑っていた昨日今日の印象とはとんと違う表情に目が離せない。扉の前でただただ佇んでいるのは先程までわんが思考を巡らせていた渦中の人物…
わんの前の席の持ち主であるやまだはなこその人だった。


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