高校二年の1月。3学期も始まりを告げ、暦上では既に下旬。こんな中途半端な時期に転入、おまけに事情有りで声が出ないと聞けば、“何やら訳あり?”となるのは通りだが、存外わったーのクラスにそんなものは関係ないらしい。


「やまださんゆたしくなぁ」

「笑顔可愛いやぁー!」

「てかやまださん止めて、はなこって呼ぶばぁよ!」


朝礼が終わり担任の安里が教室を出るや否や、ワラワラとやまだの元に集まるクラスメート。矢継ぎ早に質問を浴びせられながらも、一つ一つ丁寧にノートに回答を書き込むやまだ。嫌がる素振りは全く見せずに笑っている。


「うっわ…やっべーやっし」

「すっげーさぁ」

「裕次郎は行かんで良いんばぁ?」

「どうせ前後の席さぁ、喋る機会は幾らでもある。やーは?」

「わんも裕次郎と同じさぁ」


やまだの後ろの席のわんと斜め後ろの凛は、あの人集りに巻き込まれないように教室の前に避難中。あいひゃー、幾ら何でも集まり過ぎやっし。凛なんかイチゴ・オレのストローを噛みながら、「気持ち悪ぃ」とかいう始末。おいおい、そんなこと言ってるとまた永四郎にドヤされるぞ。


「もうすぐ一時限始まるばぁよ」

「じゅんにやし、席戻るさぁ」

「じゃあ後でね、はなこ」


授業が始まる1分前、誰かが気付けばそれは皆に伝わるもので。ワラワラと人集りになっていた場所も、皆が各々の席に戻っていく。いつも思うけど本当にこのクラスある意味真面目な奴が多いさぁ。


「わったーも戻るど」

「あいよ」


ようやくお見えしたわったーの席。凛に促され戻る矢先に、やまだと視線が交わった。昨日の件があった所為で反らすにも反らせない。狼狽えるわんを知ってか知らずか、やまだは俯きペンを走らせる。そしてノートをわんに見せるように立てた際に視界に捉えた羅列。


“昨日はありがとう。あとで色々お話したいです”


白紙に映える綺麗な文字がそこに静かに並んでいる。承諾の意を込めて首を縦に振れば、昨日と同じようにふんわりと柔らかく笑うやまだがいて…何故かほんわかと暖かい気持ちになった。




胸の中が暖かくなった理由、この時のわんはまだ知らない。


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