「うっわ…!やっべ!遅刻やっし!」


朝練がないのを良いことにただ宛もなくさ迷っていれば、時刻はまさかの8時20分。最近連日の朝練で中々散歩出来なかったから、つい夢中になりすぎて気付かなかった。ヤバい、コレはヤバすぎる。


「(遅刻したら生搾りさぁ…!)」


今月は特に遅刻が多かった。そのことに痺れを切らした担任が遂に永四郎に告げ口をしたのだ。そして永四郎からたっぷりお説教を頂いた後、「次遅刻したらゴーヤー生搾り」と宣告を受けたのが一週間前の話。ドヤされるのも嫌だが、ゴーヤーの方がもっと嫌だ。息も切れ切れに全力疾走をすれば、始業の鐘とともに教室にゴール。…助かった! 


「よう。間に合ったんばぁ?」

「うきみそーち。…ぬーといな」

「うきみそーち。今日遅刻だったらゴーヤーだったぜ」

「やんやー…じゅんに焦ったさぁ…」

「遅刻するやーが悪いんど」

「凛、かしましい」

「五月蠅いのは二人ともだ。甲斐、来たなら早く席に着け」


凛と二、三言葉を交わし担任の安里に窘められ、近くのクラスメートたちへ挨拶もそこそこに凛の隣の席に着く。10分近くの全力疾走は体にクる。折角朝練が休みだったのに、これじゃあ朝練したのと大差ない。…いや、大差ないは言い過ぎかもしれない、そんなことを永四郎や監督に聞かれたら体力を付けろとまたドヤされるに決まってる。それだけは勘弁、だ。


「なー裕次郎、」

「ん?」

「今日サプライズがあるんだとよ」

「は?ぬーばよ、それ」

「わんも知らねー、ただ安里が言ってたんさぁ」

「ふーん、でも大したことねーやっし?」

「まぁ朝礼後に分かるらしいさぁ」


大したことない。そう一口に言い切ってしまっても、サプライズと言われれば気になるのは人の性というもので。何があるんだろう、とワクワクしてしまうのは仕方がないと思う。実際凛も興味ない振りしながら、ソワソワしてるのは見て分かるほどだし。


「じゃあ、最初に言っていたサプライズだ」


朝礼が終わる数分前。安里が幾つか連絡事項を済ませた後、ついにそう口火を切った。教室から湧き上がるざわめき。そんなわったーの姿に安里は眉根を寄せながら、「静かにしないか」と一喝したものの、ざわめきは一切収まりをみせない。


「先生ー!サプライズってぬーばよ?」

「へーく知りたいさぁ!」

「分かった、分かったから。取り敢えず黙れ」


まだざわめきは残るものの、先ほどに比べると大分収束が付いた。それらを見計らってから安里は「入れ」と一言零すや否や、ガラガラと音を立てて開く教室の扉。そのまま真っ直ぐと歩を歩めて安里の隣に肩を並べたのは、比嘉高の制服を身に纏った一人の女。


「東京から転入してきたやまだはなこさんだ」


教室からはさっきとは別の意味で湧き上がる歓声。新しいクラスメートが増えることに対して、男女問わずに物凄い勢いだ。ただ安里の隣に並ぶその姿を視界に捕らえて、わんは思わず目を見開く。安里は一喝するのも面倒なのか、そのまま何食わぬ顔で言葉を続けた。


「やまだはある事情で声が出ない。ただ聞き取りや筆談は可能だから、皆仲良くするように。尚、質問などは授業中は厳禁だ。きちんと休み時間を使えよ。以上」


“席は甲斐、あのふわふわの茶髪の前の席だ”安里が告げるとともに、転入生はわんの元に近付く。見覚えがある、ことに間違いなかった。



「ゆたしく、やまだ」



少しだけ驚いた顔をした。その後わんが零す言葉に転入生は柔らかい笑顔を添えた。この笑顔はまだまだ記憶に新しい。何故なら今目の前にいるやまだは昨日お気に入りの防波堤で会ったあの時の女だったからだ。


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