いつものように学校に行って、いつものように部活をして、いつものように皆でダベっては、いつものように寄り道をして家に帰る。そんないつもと変わらない“いつも通り”が今日は少し違った。


「あい?先約?」


最近お気に入りの防波堤。沖縄に防波堤なんて腐るほど在るし、海も景色も綺麗。正直どの場所でも見える景色が上等であることに変わりなかったが、この場所から見える景色はそれをも越えるほどの絶景だった。少し入り組んだ場所に在るためか、今まで誰かと遭遇したことがない。偶然見つけたこの場所は、まさに穴場中の穴場で専らわんのお気に入りの場所の一つ。ここ二週間ほど寄り道はこの場所、とわんの中で定番化していた。

だけど今日は先約。わんが近付いた物音で向こうもわんに気付いたようで、驚いたように振り返る。…見たことのない顔。夕暮れの所為で顔の造形まではハッキリとは分からない。でも同い年くらいには感じた。風が柔らかく頬を撫でる。靡く髪が視界を邪魔するもののお互いがお互い視線を合わしたまま。わんも向こうも動けない。


「よ、よう。やーもこの場所気に入ってるんばぁ?」


このままじゃ埒が空かない。そう思い意を決して近付きながら声を掛ければ、第一声の声が裏返った。…うっわ、でーじ恥ずかしい。絶対コイツ馬鹿だろうと思われてるだろうなと思っていると、目の前の彼女はただ目を真ん丸くして驚いていた。うっわ、目ぇデカいさぁ。…じゃなくて。


「わん別に怪しいヤツじゃないさぁ!ただわんもくぬ場所気に入ってて…」


いきなり声掛けたから不審者扱いされているんだろうか。そう思い否定したものの、なんか余計怪しい気がしてきた。そもそも“自分が不審者です”って名乗る人間なんていない訳だし、知らない人間が声を掛けてきたら普通にビックリするよな。


「(でも流石にここまで言ったら無視は…)」


視線を目の前の彼女にやればただふんわりと静かに笑っていた。夕陽が海に落ちていく中穏やかに笑う彼女の雰囲気に魅了されたのは確かで、彼女はそこから一礼をしてわんの隣を走り抜けていった。甘い甘い、薫りがわんの鼻孔を付く。走り去る後ろ姿から何故か視線が外せなかった。




結果的には彼女と一度も言葉を交わすことが出来なかったのだが、その理由が判明されたのは翌日の朝のことだった。


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