先程までわんのテンションはこれでもかってくらいに上がっていた。今なら永四郎の前髪を鷲掴みにしてわっしゃわっしゃ出来るんじゃないかってくらい。(実際にそんなことをした日には明日の朝日を拝めないことは百も承知の上だ)そんな怖いものすら恐れることもないくらいだったテンションは、今目の前にいるこの男によって砂上の城の如く見事に崩されてしまった。


「凛?ちゃーさびたが?」


忌々しくじっとりとした視線をやれば、焦ったように狼狽えているのは部活メイトであり、悪友でもある甲斐裕次郎で。いつもなら軽く笑ってそのまま苛めて遊んでいたのに、それが適わないのは間違いなくわんの手の中で鎮座している二枚の紙切れが原因でままならない。


「………」


幾度見ても変わらない数字。眉根に思いっ切り溝が刻まれるのが分かる。今のわん絶対でーじ険しい顔やっし。そんなことをふと考えていた矢先、隣にいた裕次郎が、やーの顔でーじ怖いんやしが…などと抜かしてきたもんだから、取り敢えず思いっ切り裕次郎の頭を叩いてやった。


「いってぇぇえ!!!ぬーするんばぁ!?」

「かしましい!」

「いきなり殴って‘かしましい’は可笑しいだろ!わんがぬーしちゃん!?」

「裕次郎、でーじ腹立つ!」

「はぁぁあ!?意味分からねーらん!」


わんがカました一撃はどうやら思いの外痛かったようで、裕次郎の目が珍しく涙目だ。無防備に近い状態だった為、十二分に受け身を取る隙すらなかったのだから当然といえば当然の話。そんな裕次郎を見て僅かながらにも優越感を得た。…のも束の間の話だが。


「アナタ達何騒いでるんですか」


あんまり裕次郎とギャースカ騒いでいたものだから、わったーの周りには小さな人溜まりが出来ていて。一体何処にいたのか、背後からはまさかの恐るべき恐怖の黒船来襲。傍らには不知火も備えて。…じゅんにか。


「今は身体測定の最中でしょう。そんなに有り余るほど体力があるなら後でたっぷり扱いて差し上げますから」

「「んなっ!!!!????」」


でーじ有り得ない。苛立ちを込めて裕次郎を睨めば、裕次郎も同じことを考えていたようで強い眼光をわんに浴びせてきた。引いたら負けだろと思い双方に睨み合っていたら、永四郎から「いい加減にしないとゴーヤー食わすよ」と非常に有り難みのない言葉を投げつけられた。


「で、何が原因なんです?」

「何がも何も凛が突っかかってきたんさぁ!いきなし殴られるしでーじ痛かったし!」

「ふらー!裕次郎が悪いんばぁ!!」

「だぁが、意味分からねーらん言ってるんやっさー!」

「あーもう分かりましたから。アナタ達小学生か何かですか。もっと話し合いの意味を理解しなさいよ」


永四郎に平古場クン何故こうなったか答えなさいと言われて、自棄になりながら手のひらで握り締めていた紙切れを投げた。


「何ですかコレ?…って測定表じゃないですか」

「凛のとわんぬやっさー」

「…ゅ…に…だ…ょ」

「あい?凛?」

「裕次郎に負けてたんだしよ!去年はわんぬ方が高かったのに!」


八つ当たりしたわんが悪い。そんなことは分かっていてもやっぱり腹立たしいことには変わらない。ぐちゃぐちゃになった紙に記されているのは先程終えたばかりの身長測定の数字。ようやく170の台に乗ったことが嬉しかったのに、まさかの裕次郎は175。去年は間違いなくわんの方が高かったのに。


「そんな何pも変わらないじゃないですか」

「ふらー!3cmも変わるさぁ!」

「そんなことかよ!わん殴られ損やっし!」

「かしましい!裕次郎は黙ってろ!」

「黙るのはアナタ達ですよ、甲斐クン、平古場クン。」

「でも永四…「第一…」


アナタ達二人がドングリであることに変わりありません。
(「「ドングリ!?ぬーんち!」」)
(「おや、分かりませんか?ドングリの背比べですよ」)
(「意味分からねーらん!」)
(「知念くんを前にしたらアナタ達なんて…」)
(「「(人情味の欠片もねぇ言い草やっし…!)」」)
(「あぁ…それと今日のメニューは倍でお願いします」)
(「「ゆくしだろ…!」」)

20130109



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