「…裕次郎ぬーしてるんばぁ?」

「凛じゃん。でーじ気持ち良いさぁ」

5時限は体育だった。先週まではサッカーだったが、今日からは確か体育館でバスケをするとかなんたら…と体育委員が朝礼で言っていたことを思い出す。あー通りで教室にいるクラスメートがまばらなのか。昼休みは早めに切り上げて着替えなければ、と思った矢先辺りを見回しても裕次郎が居ない。放浪癖がある自由気ままな裕次郎が教室から居なくなることはよくある話だが、きっとアイツのことだ。体育の授業が移動だということを聞いていないだろう。

「(はぁ、…でーじ面倒くせー)」

風紀委員であるが故に決められた裕次郎捜索係。同じクラスであり、部活も一緒となれば必然的にそうなるのは目に見えていた話ではあるが、如何せん裕次郎は気ままな猫のようでその日の気分の赴くままに行動するから、身を置く場所にまるで一貫性がない。そんな裕次郎を探すのは中々骨が折れる行為だった。

思い当たる2、3箇所に足を運んでみるが裕次郎の姿形はなく…仕方がないから手当たり次第に歩を進めれば、微かながらに聞こえた小さな音。聴力を頼りに進めば、見慣れたふわふわの茶髪。ようやく見つけた。

「凛もかまんかいきちみー」

「…じょーい嫌さぁ」

見つけたは良いがでーじ有り得ない。いくら沖縄といえど1月、そんな時期に何故プールに浮いているかが全く理解出来ない。おまけに服を着たままだ。わんも海ではよくするが流石に学校内ではしないのに。

「ちぇっ。連れねーさぁ」

「今1月さぁ。流石に寒いだろ」

「何かプール見てたら急に入りたくなったんさぁ」

「制服で?」

「着替え持ってないし」

「…ビショビショの制服で授業どうするばぁよ」

“あいひゃー忘れてた!”と声を上げて笑う裕次郎はただのふらーだ。それ以外、言い表せる言葉がない。わんの言葉もそこそこにプカプカと浮きながら未だプールから上がる気配すら感じられない。…一体どうするつもりなんだ。

「…なー凛」

「ぬーばよ?…ってうわっ…!止めれ!」

「もう、遅いさぁ!」


あろう事か裕次郎はわんをプールへと引きずり込みやがった。でーじ有りびらん。

「(わざわざ探しに来たのに何でわんまで…!)」


沸々と湧き上がる怒りは裕次郎の間抜けの顔を見ていたら、段々どうでも良くなってきた。じゅんに裕次郎は良い意味でも悪い意味でも、裕次郎だ。あまりよく知らない人間はわんのことを自由気ままだと言うけれど、本当の意味で自由気ままなのは裕次郎の方だ。本人が無自覚だから尚一層質が悪い。

「はぁ…、次からは探さんけー」

「ははっ、凛は優しいやー。じょーいわんを探すさぁ」

「分かってるなら止めれ!」

気温はまだまだ低いけど、空は晴れ渡っていて空気も澄んでいる。一度濡れてしまっては仕方ない。大きく伸びながら水面に浮かべば感じる浮遊感が心地良い。…あー、裕次郎に感化されてるさぁ。

「たまになら良いさぁ」

「…やーはたまにやないあんに」

「ゴメンちゃい」

5限目の始めを告げる2度目の鐘を聞きながら、結果的には放課後まで裕次郎とプールでダベり続けた。部活の際に永四郎とマネージャーから、家では母親から有り難い言葉を頂くと共に、後日わったーが当然の如く寝込んだことは恥ずかしいから誰も知らないで良いと思う。

20130204


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