牧side
「おーい、一瀬ー」
あちゃー。
神木の声かけも虚しく、彼は熟睡している。
「あーあ、起きないねこりゃ」
「だな、腹減ったろ?」
「うん、結構」
笑いながら答える。
そんな俺からしたら、飯を食わないっていう一瀬はありえない。
育ち盛りのうちに飯食わないで、いつ食べるんだよ。
あ、だからちっちゃいのか!(本人に言ったら絶対怒るだろうけど)
「じゃ、食堂のオバちゃんに言ってもらってきてやるよ」
「キャー、神木くんー、さすがー」
「棒読みやめろ」
言いながら、神木は一瀬の部屋を出て行った。
うわー、ふたりじゃん。一瀬と俺と。
「…」
この間の匠美さんの言葉が最近俺の頭にはぐるぐるしていて。
[颯天のこと好きでしょ?]
[私、同性愛には偏見ないから]
違う、違うんだよ。俺は普通の女の子が好きだし。
颯天をそんな対象で見たこともない。
けど、匠美さんが変なこと言うから。
変に意識してしまって。
『ん、んー…』
「!?」
どうやら考え込んでしまってたようで、一瀬の唸りにめちゃめちゃびっくりした。
その俺の反応で、肩にあった一瀬の顔が、前に落ちそうになった。
「あ、やばっ!」
とっさに出た手で支えて。
『ん、…』
あ、あっぶな。
けど。なんとか支えた結果、なぜかめちゃめちゃ顔近い。
あちゃー、こんなとこ誰かに見られたら
ガチャッ
「持ってきたぞー」
「あ、サンキュ」
「「…」」
お約束っすよね。神木さん登場ー
「なんか、ごめん…」
「いや!違うから!神木が想像してるようなことないから!!」
一瀬の冬休みをかけた補習授業初日は、まさかの誤解を晴らすって形で終わった。
なんで、最後にこんなに疲れなきゃいけないんだよー!!
end
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