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「ねえ」
『…』
「ねえったら」
『…はい?』
テーブルを拭いていた手を止め、声がした方を向けば、もうすっかり見慣れたその顔。
漆黒の髪と瞳に、それが映える整った顔立ち。
名を、雲雀恭弥くんと言うそうだ(自分で言ってた)。
方や私は地元の高校に普通に通うごく普通の高校生で。
中学から憧れていた喫茶店でのアルバイトに明け暮れる日々、なのだけど。
どうしてかここ最近、コイツはやたらと付きまとってくる。
「付き合ってよ」
『お断りします』
ニッコリ営業スマイルでおかえし。
いつもこの調子。
まったく、こっちはただのバイトでしかも場所はバイト先。
もう本当嫌になる。
何が嫌って、年下にドキドキしてる自分が嫌。
アイツはからかってるんだ、私のこと
だって、そうじゃなきゃおかしいもん。
「ねえ律」
『名前で呼ぶな』
「いいじゃない、別に」
良くない、全然良くない
私は高校生で、彼は中学生で。
「好きだよ」
なのに彼はいつも私を惑わして
「ねえったら」
私の胸を高鳴らせて
でも彼は余裕気で
「好きなんだけど」
『――――』
私が君に負けちゃうまで
あと、少し
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