『あーあ』

小さく漏らしたその声は周りの音に消されていく。

もうほとんどの生徒が帰ってしまった学校の玄関で、ザァーザァーと降る雨を睨んだ。

どうして今日に限って委員会があるの
どうして今日に限って傘を忘れてくるのよ!


『はぁ…』

小さくため息をついた。
今さら何を恨んだってしょうがないけどさ。


もうこれは濡れる覚悟で走るしかないな、うん。


『とうりゃ!…ぐぇっ』

勢いよく飛び出そうとした時、誰かに襟元をひっぱられた。

変な声出ちゃったじゃないか!全くもう、誰よ!



『うっわぁ…』

未だ襟を離さない誰かさんに、睨むような視線だけを向けて…即効で後悔した。

『雲雀恭弥…』

さよならみなさん。
あたし逝きます。

「なにしてるの、君」

すぐ後ろで私を見下ろしていたのは
他でもない我らが風紀委員長様。

『えっ、えっと…帰る、とこです』
「なにで」
『徒歩…全力疾走…?』

「…馬鹿じゃないの」

ため息をつかれても困る

「雨降ってるでしょ」
『は、はい』
「傘は?」
『わ、忘れちゃって…』

吃りながらも答えると、またまたため息をつく。

そんなにため息つかなくてもいいじゃない!
…絶対言えないけど。



「しょうがないね
…行くよ」
『は、っえ!?』

委員長が自前の傘を開いたかと思うと、あろうことか私の手を引いて歩き出した。

い、意味が分からないんですけど!
心臓がドキドキいいすぎてオーバーヒートしちゃいそうなんですけど!


『い、い、委員長…!』
「もっとこっち来ないと濡れるよ」

ぐいっと肩を引き寄せられて、顔のすぐ上に委員長の顔が…!
…顔はかっこいいんだよなー、めちゃめちゃ。


「律」
『は、はいっ』
「僕が誰にでもこういうことすると思うかい」
『…い、いいえ』
「そう。分かってるならいいんだ」

いや、あの理解してるのあなただけですから。
私意味分かってませんから!

『あの、どういう…』
「…君だけってことだよ」

私、だけ…?
ますます分からない。

「…鈍いね」
『え、あのすみま…』

チュッ

リップ音、それから唇に触れた柔らかい感触。

「理解できたかい?」

妖艶に微笑む貴方。
それらが導き出す答えは、この胸の高鳴り。

(あぁ、どうしよう)

雨の中、相合い傘をしながら感じたのはドキドキと右手の温もり。

(あぁ、どうしよう)

気づきたくなかった
気づかなくてよかった

貴方がこんな温かいなんて。





END

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