1
「どうしてやろうか」
口に出してみるけど、この空間を共有しているはずの律の返事は帰ってこなくて。
放課後、暇そうにしていた律を(半ば無理矢理)連れて応接室にやってきたのはいいけど。
「寝ないでしょ普通」
仮にも僕は男で、君に好意を寄せるひとりで。
女生徒なのに僕を恐れていないあたり、信頼されていると考えていいんだろうか。
…それも微妙だけど
自身の終わらせた書類を片し、ソファに寝そべる彼女の隣に座ってみた。
重みにソファが沈んだけど、それに気づく様子はない。
「あ」
ひとつ閃いて、ポケットから携帯を取り出す。
数えられるくらいしか使用したことのないカメラ機能を選択し、すやすやと寝息をたてる彼女をフレームに収めた。
――カシャッ!
思った以上に音が大きくて、僕自身の肩が少し跳ねた。
けど、律に起きる様子は見られなくて。
ホッとした半面、つまらないと感じて。
撮った彼女の寝顔を保存して、あとで待ち受けにしてやろう、なんて誓った。
あ、そうだ沢田やパイナップルに見せてもいいかも。
牽制になるかな、彼女は僕のだって。
…まだ、僕のじゃないけど、まだね。
「もう起きなよ」
『んー…っ』
さすがにただ待っているのも飽きて、肩を揺すってみるけど身を捩るだけで未だ起きる気配はない。
その時ふと、幼い頃に一度だけ聞いた童話を思い出した。
『何年も眠ったままだったお姫様は王子様のキスで目覚めるのです』――
当時は馬鹿馬鹿しい、と感じたものだ。
…童話のお姫様や王子様には程遠い僕ら、だけど。
ソファに手をついて、ゆっくりゆっくり。
叶ったらいい、僕の願い
――彼女の唇に自分のそれを這わせた。
想像よりも遥かに柔らかいそれ。
名残惜しさを感じながらも、ゆっくり顔を離せば。
同時にゆっくりゆっくり、開かれる瞼。
ドキン、ドキン
胸が高鳴った
『ひ、ばり…?』
「おはよ」
平然を装って
いつも通りを心がけて
…なのに。
『ひばり、王子様みたぁい』
寝起きだから舌足らずな口調でそんなこと言われたら。
「…落ちるよ」
『?』
堪えられるわけがないじゃない?――
end