「どうしてやろうか」

口に出してみるけど、この空間を共有しているはずの律の返事は帰ってこなくて。

放課後、暇そうにしていた律を(半ば無理矢理)連れて応接室にやってきたのはいいけど。


「寝ないでしょ普通」

仮にも僕は男で、君に好意を寄せるひとりで。
女生徒なのに僕を恐れていないあたり、信頼されていると考えていいんだろうか。
…それも微妙だけど



自身の終わらせた書類を片し、ソファに寝そべる彼女の隣に座ってみた。
重みにソファが沈んだけど、それに気づく様子はない。


「あ」

ひとつ閃いて、ポケットから携帯を取り出す。

数えられるくらいしか使用したことのないカメラ機能を選択し、すやすやと寝息をたてる彼女をフレームに収めた。

――カシャッ!

思った以上に音が大きくて、僕自身の肩が少し跳ねた。

けど、律に起きる様子は見られなくて。
ホッとした半面、つまらないと感じて。

撮った彼女の寝顔を保存して、あとで待ち受けにしてやろう、なんて誓った。
あ、そうだ沢田やパイナップルに見せてもいいかも。

牽制になるかな、彼女は僕のだって。
…まだ、僕のじゃないけど、まだね。




「もう起きなよ」
『んー…っ』

さすがにただ待っているのも飽きて、肩を揺すってみるけど身を捩るだけで未だ起きる気配はない。

その時ふと、幼い頃に一度だけ聞いた童話を思い出した。

『何年も眠ったままだったお姫様は王子様のキスで目覚めるのです』――

当時は馬鹿馬鹿しい、と感じたものだ。


…童話のお姫様や王子様には程遠い僕ら、だけど。

ソファに手をついて、ゆっくりゆっくり。

叶ったらいい、僕の願い

――彼女の唇に自分のそれを這わせた。


想像よりも遥かに柔らかいそれ。
名残惜しさを感じながらも、ゆっくり顔を離せば。


同時にゆっくりゆっくり、開かれる瞼。

ドキン、ドキン
胸が高鳴った



『ひ、ばり…?』
「おはよ」

平然を装って
いつも通りを心がけて


…なのに。
『ひばり、王子様みたぁい』

寝起きだから舌足らずな口調でそんなこと言われたら。

「…落ちるよ」
『?』

堪えられるわけがないじゃない?――




end

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