Date 08/02 13:18
sub やっほー(*^o^*)
───────────────
夏休み満喫してる?
わたしは今彼氏とふたりで
海にきてるよー!
お土産買ってくから
期待しててねーっ!

-END-



銀ちゃん家でいちごのかき氷(間違えなく銀ちゃんの隠しアイス)をしゃくしゃく頬張っていたら、こんなメールが届いた。送り主は学校で1番仲のいい子。そういえば、夏休みに入る前、今年は彼氏と海に行くんだ!って張り切っていたっけ。キラキラ眩しくて、いつもより3割増でかわいい彼女を思い浮かべて、少しだけうらやましく思いながら返信を打とうと携帯を握り直す。ポチポチとことばをつむぎながら、そういえば夏休み、まだ全然満喫してないなあ、なんてさみしいことを思い出す。銀ちゃんが大学のテストと戦い、もくもくと煙が出なそうなくらい頭を悩ませてる今、わたしの暇潰しの相手をしてくれるのは学校の課題くらいだ。このナマケモノなわたしが夏休み開始1週間で、半分終わらせてしまったんだから相当!


「海かあ〜」


メールに添付されていた真っ青な海の写真を見て、いいなあ、なんて思いながら赤い氷をスプーンですくった。きっと銀ちゃんも直に夏休みに入る。そしたらわたしだって銀ちゃんと一緒に海に行ったり旅行に行ったりしたいなあ、なんておこがましくもそう思った。だけどきっと銀ちゃんは、どこかに出かけるよりも、おうちでのんびりゴロゴロしてる方が好きに決まってる!おまけに銀ちゃんは行動力どころかお金もない。だからきっと今年も、例年通り駆け足で過ぎていく夏を、わたしと銀ちゃんはクーラーの効いた部屋の中でのんびり見送るのだ。実はそれも悪くないと思っているのだけど。夏休み明け、雪もびっくりするほどの真っ白い肌をみんなに羨ましがられるのはちょこっと嬉しかったりする。だけどやっぱり、わたしだって…!意気込みながら赤い氷を口の中に放り込んだら、甘い味と一緒にわがままな気持ちもわたしに溶けた。



***



昼ドラのどろどろの展開が気になる最中、後ろの方からガチャリ、と待ち侘びた音がした。急いでテレビと反対側、真後ろに首を返すと開く玄関からなだれ込むように銀色がわたしの眼を眩ませる。「たでーま〜〜」と酷く間延びした声で宇宙語を話す男は足早にキッチンを抜け、わたしの横をすり抜け、クーラーの真下にあるベッドへ倒れ込んだ。枕に埋もれながら生き返る〜と呟く男、もとい銀ちゃんは今度こそちゃんと日本語を話していたけど、その姿があまりにもマヌケでわたしはひっそり笑いをこらえた。



***



かき氷の入っていた、今はすっからかんとなったカップをバレないうちに捨てるべくキッチンへと向かったわたしは、帰り際に氷のたっぷり入ったグラスに麦茶を並々注いだ。それを銀ちゃんに手渡せば一気に飲み干してしまう。一体どれほど喉が渇いていたのかしら?わからないけど、きっとこれでかき氷の件はチャラにしてくれるはず!これくらいで?って思うかもしれないけど、銀ちゃんはわたしに到底甘いのだ。


「銀ちゃんの大学って、いつから夏休みなの?」

「ん〜、明日から?」

「なんで疑問形?」

「そっちこそなんで?」


銀ちゃんの赤い目玉がじっとわたしを捕まえる。ああ、困った!これじゃあわたし、きっとうまいこと嘘を言って退けれるはずがない!銀ちゃんは時々とんでもなく真っ直ぐな眼をする。いつものちゃらんぽらんなダメ人間は幻かなんかじゃないかしら?って思ってしまうくらいの、真剣な顔。銀ちゃんにこの顔をされてしまうと、わたしはどうも弱気になってしまうのだ。夏休みどこかに行きたいって、ほんとうのこと言っちゃおうかな?でも銀ちゃんが困るかもしれないし…わたしの情けない葛藤が続く。そんな黙りこくったわたしを、銀ちゃんは絶えず見つめる。そして沈黙を破った。


「夏休み、どこ行きてェの?」


銀ちゃんの言ったまさかの言葉にわたしは金魚のように口をパクパク動かして、急いで三回瞬きをしてから、部屋中に目線を泳がせた。なんてマヌケな!けれど、今はそんな過ぎたこと気にしてる場合じゃない!急いで銀ちゃんの質問に答えないと!銀ちゃんは気まぐれだから(みんながよく知ることわざも、乙女心と秋の空と坂田銀時に改正してほしいくらい!)、わたしがモタモタしてる間に気持ちが変わってしまうかもしれない!


「うみ!海に行きたい!」

「海か〜、」


口から飛び出た欲望に、スッと胸が軽くなった気がした。だってわたしも海行きたいもの!銀ちゃんと一緒に行きたいもの!さすがにそれは恥ずかしいから言えなかったけど。だけどわたしの気持ちとは裏腹、銀ちゃんはう〜んと唸りながら眉を寄せた。ああ、まずい。やっぱり海なんて嫌だったかも。な〜んて思ったのもつかの間、銀ちゃんはびっくりするくらいの真面目な顔でこう言ってのけたのだ。


「よし、条件は白ビキニだ!」

「…うん?」

「だからビキニ!絶対シロ!わァったな!」

「わ、わかった…!!!」


銀ちゃんの迫力に押し負けて張り切って返事をしたら、銀ちゃんは急にクスクスと笑いだした。銀ちゃんと海に行くためなら、白ビキニだってなんのその!今年は花柄にしようって決めてたけど、銀ちゃんが白がいいって言うなら絶対だ!今年は白!白ビキニ!心の中でひっそりと、だけどしっかり心に決めた。相変わらず銀ちゃんはクスクス笑ってる。


「ねぇ、なにがそんなにおかしいの?」

「いや、白ビキニなんて冗談に決まってんのに真面目に返事すっから」

「ひどい!からかったな!」

「楽しみにしてっから、白ビキニ。あ、スカート履くとかナシな?」


半笑いな銀ちゃんにちょこっとムカつきながらも、わたしは内心ウキウキとワクワクでいっぱいだった。ようやくやってきた。ミーンミーンと元気に鳴くセミも、どこまでも広がる青い空も、輝きを増す太陽も、わたしも、きっと銀ちゃんも、みんなみんな待ってたのよ。世界でいちばんたのしい季節!


「銀ちゃん、」

「ん?」

「夏休みいっぱいあそぼうね」

「おう、どこでも好きなとこ連れてってやらァ!」

「うっそつけ〜!」


明日も明後日も待ってる夏の日。銀ちゃんとわたし、たのしい夏休みの幕開け!




20100829


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -