クーラーのガンガンに効いたファミレスはまさに天国そのものだった。暑さその他諸々のせいで、わたしは学校からここまで来る間にかなりのHPを失った。運動不足な自分乙。



「にしてもかっこよかったわね〜さっきの子」

「あ〜、……うん」



目の前に座る妙ちゃんはニコニコしながら言った。いつもより高いトーンの声が彼女の機嫌の良さを物語る。反対にあからさまに低いトーンの声を出すわたしを妙ちゃんは不思議そうな顔で見つめて来た。



「あら、どうしたの?ちえこちゃんったらそんな浮かない顔して」

「あ、いやなんかこういうの慣れてないし」

「やだわ〜、そんなこと?こんなの慣れてる人の方が少ないわよ。そんなことよりあの子確か新ちゃんと同じクラスよ、見たことあるもの」



妙ちゃんはご機嫌モードで言葉を続ける。何故アドレスを聞かれたわたしより、彼女の方がこんなにもウキウキしているのだろうか。わからない…。しかしそれ以上にわからないのがわたしのテンションの低さだ。やけに冷静な自分が不思議だった。漫画とかでよく見るような場面が実際に自分に起こったら普通ドキドキしたりウキウキしたりするものだと思う。しかし今のわたしは全然そんな気分ではない。だがかと言って別に嫌なわけでもなかった。普段なら知らない人間にアドレス教えたりなんてしないのに、わたしはあの蜂蜜色の髪をした後輩にアドレスを教えたのだ。



「でもよかったわ」

「何が?」

「これでちえこちゃんにも彼氏が出来るじゃない」

「いやいやいや、なんでそうなるの」

「だってあの子、絶対ちえこちゃんのこと好きよ!顔に書いてあったもの」



わたしの勘はよく当たるのよ、なんて言って妙ちゃんは笑った。そんなわけなかろうと思ったが、とりあえずわたしも妙ちゃんに合わせて笑っておいた。カランとコップの中の氷が音を立てて動く。



「そういえば、このこと土方くんにも教えなくちゃ」

「え、いいよ〜教えなくて。トシに知られたらいろいろめんどくさいし」

「でも仲間外れてってわかったら土方くんのことだからかなりキレそうよね」

「あー、それもめんどくさい」



どちらにしろ最終的に「めんどくさい」結末にしか繋がらないのか。そう考えると自然と溜め息が漏れた。確かにあの瞳孔の開ききった顔でキレられたら堪ったもんじゃない。ああもう。めんどくせーなチクチョー!



「う〜ん……とりあえずトシには言わなくていいよ、聞かれたら教えればいいし。だから妙ちゃんもトシには言わな『お待たせ致しました!こちらいちごパフェでございます』

「ハイ!わたしです!」



とりあえずあの後輩のこともトシのこともめんどくさいから考えるのは止めだ。今のわたしには目の前に現れたいちごパフェだけが全てだ。



「きゃー!おいしい!もうこの絶妙に絡み合う生クリームといちごソースが最高〜!」

「ちえこちゃんったらほんとに甘いものが好きなのね。今日一番幸せそうな顔してるわ」



そんなの当たり前じゃないか。自分の色恋よりも目の前のパフェだ。そう言いたかったが食べ出すと突っ込むのもめんどくさくなり、ただひたすらに頷きながらパフェを口に運んだ。