頭上に広がる空は雲一つなく青々としていた。西に傾き始めた太陽は未だ眩しく照り付け、たまに吹く風は爽やかで気持ちいい。超めんどくさい授業がフルで入ってる日の放課後程、開放感の大きいものはないと思った。妙ちゃんと歩きながら5月晴れと言う言葉がまさにぴったり当て嵌まるこの空を仰ぐ。



「どこに行く?」

「ファミレスとかは?わたしパフェ食べたい!」

「いいわね、じゃあファミレスにしましょうか」

「ファミレスか〜いいですね〜!まぁ、俺はお妙さんがいればどこでもいいんですけグフォオっ」

「やだわたしったら!ここは学校なのにゴリラが見えたわ!」



隣で歩く妙ちゃんはいつの間にかわたし達と、然も当たり前かのように肩を並べて歩く近藤くんにエルボーを食らわせた。いつもと同じ騒がしい放課後の駐輪場には今日何度目かわからない近藤くんの叫び声が木霊する。少し遠くから聞こえてくる野球部の掛け声や吹奏楽部の楽器の音は三年生ともなれば嫌でも耳に馴染んでいた。


わたしにとっては何もかもが当たり前だった。煩い駐輪場も、近藤くんの叫び声も、野球部の掛け声も、吹奏楽部の楽器の音も、全部全部既にわたしの日常に溶け込んでいた。それだけじゃない。いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じ制服を着て、いつもと同じ教室で、いつもと同じつまらない授業を受けて、これら全てがわたしの日常なのだ。淡々と流れていく時間の中で変わるものは何一つなくて、目の前にあるのもが全てだった。それは昨日も今日も明日も、きっと卒業までずっとずっと変わらない。



「あの、すいやせん」



だからこそ、こんな少女漫画染みたことが自分の身に起こるなんて、絶対絶対ありえないと思っていたのだ。そう、まさにこの瞬間まで。



「先輩、アドレス教えてくれやせんか?」

「…え、わたし!?」



それはいつもと同じ騒がしい放課後の駐輪場。日常が非日常へと変わった瞬間だった。真っ直ぐにわたしを見つめる男の子の蜂蜜色の髪の毛は5月の風に乗ってさらさらと揺れた。