開け放した窓から差し込む光はとても眩しかった。緩く吹く風はゆらゆらとカーテンを揺らす。どうやら外は今日もいい天気のようだ。しかしそんな事を気に止めてるほど今日のわたしは暇じゃない。今朝は特別忙しかった。燃えるゴミの日だからゴミ捨てに行かなくてはならないし、ごはんも作らなくてはならない。本来ならば朝食はコンビニでおにぎりなどを買って適当に済ませるのだが、今日は自分の分だけではないのでそういう訳にもいかないのだ。洗濯機を回すのも忘れてはならない。でないと明日の分のキッチンのタオルが足りなくなってしまう。部屋の片隅におかれた掃除機を手に取り、コンセントを刺しながらそう思った。こんなにテキパキ動いているのにも関わらず、自分自身の準備はまだ何一つ終わっていなかった。これから化粧もしないといけないし、いつもより一段と酷い寝癖も直さなくてはならない。そう思うと少々面倒臭かった。スイッチを入れると掃除機は騒がしい音を立てて仕事を始める。



「朝、起きて」



掃除機をかけながらわたしのベットに我が物顔で寝る晋助に必要最低限の言葉をかける。しかし晋助は起きなかった。わたしは自分の身支度も儘ならず朝からこんなにも忙しく動き回っているのに、晋助は未だにすうすうと寝息を立てている。それがなんだか憎たらしく思えて、わたしは晋助が頭から被っているかけ布団を引っぺがしてやった。布団を取られた晋助はんぅっと一声唸り眉を顰め、ようやく目を覚した。が、起き上がる気配は全くない。



「早く起きないと遅刻しちゃうよー」

「…知らねェ」

「バカか!社会人がそんなんでどーする!」



会話をしながらもわたしは手を留めず掃除を続けた。ガーコガーコと煩い音を立てる掃除機を後ろに引き連れて部屋中を歩き回る。普段は掃除するのに邪魔だからという理由で床に物を置いたりしないのだが今日は違った。晋助の鞄やら上着やらが床に散乱していて非常に邪魔くさい。部屋の真ん中に堂々と転がる晋助の鞄をポイっとベットに向けて投げると、鞄は二度寝しようと丸くなる晋助の頭にクリーンヒットした。晋助は痛いと叫んだが、やはり起きようとはしなかった。そんな晋助に思わずふぅと溜め息が漏れる。



「早く起きてよ」

「…むり」

「なんで」

「ねみィ」
「遅くまでテレビ見てるからだよ」

「おもしろかった」

「感想はいいから早く起きて」

「むり、まじねみィ」



理不尽な言い訳をつける晋助は布団と一体化したままだ。仕方がないので掃除機のスイッチを切り床に置き、わたしはベットに歩み寄った。かけ布団を取られた晋助は猫のように小さく縮こまり、今にも夢の世界へとフライアウェイしそうで目はかなり虚ろだ。そんな晋助を見て「黙っていれば可愛いのになぁ」なんて思ったが、多分これを言ったら晋助は怒って拗ねるに決まっている。となると余計に面倒臭くなることが容易に想像出来たので、すぐそこまで出かかっていた言葉を呑み込んだ。ベットに腰掛けうつらうつらする晋助の真っ黒な髪の毛を指で掬うと、キラキラと朝日が反射していつもより数段も綺麗に見えた。



「晋ちゃーん早く起きてよー」

「……あと、5分」

「だめー早く起きてー」

「…んー」

「晋ちゃーん」

「……ん、」

「しーんーすーけー」

「……」



わたしの努力も虚しく晋助はまんまと夢の世界へと誘われていった。指で掬った髪はサラサラと逃げてしまった。時々、自分がどうしてこんなダメダメなのと付き合っているのかとても不思議になる。もともとはしっかりした頼れる人がタイプだったのに、寧ろ晋助はそれとは真逆のタイプだ。好き嫌いは多いし、わがままだし、口は悪いし、短気だし、子供っぽい。本当にどうしようもない奴である。けれどもしかしたら、いま本当にどうしようもないのは、忙しいのもすっかり忘れて晋助の髪を指に絡めながら「結婚したら毎朝大変なんだろうなぁ」なんて呑気に考えてるわたしの方なのかもしれない。晋助の寝顔に思わず顔が緩んだ。























20100219
企画「幸福論」様に提出。
素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました。


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