『よお島田!元気にしてたか?』
「おかげさまでそれなりに」
『お前のあれ、なんだっけ?最近始めたやつ、なかなかに評判いいじゃねえの!客も順調に増えてるみたいだし将棋界の未来のためにも頑張れよ!』
「はあ」

朝一番からよくこんな元気が出るなといつもながらに思いつつ、釣りに行けなくて退屈だの打ちっぱなしに行きたいだのという会長の愚痴に耳を傾ける。

『っていうかお前さあ、結構モロなのな!』
「え……?何がですか?」
『投稿だよ投稿!』

モロって一体何がだ?そんな変なことは書いていないはず、と自分のここ数日の投稿を思い返す。覚えている限り、かなえに言われたとおり、飯のことと、仕事の話しかしていない。

『え?自覚なし?』
「そんな変なこと書きましたっけ?」
『違ぇよ違ぇ!そうじゃなくってだなあ……かなえちゃんのことだよ!』
「え?かなえのことなんて一言も書いてませんけど」
『ッカー!マぁジでわかってねえのかよ……』
「だから何がですか……!」
『お前の載せてる写真、毎回女の影がチラついてるってファンの間で話題なんだぞ』
「はぁ……っ!?」
『そりゃあ毎回載せてる飯の写真、誰がどう見ても冴えない独身三十半ばの男が作る飯じゃねえもんなあ』
「……いや、それは、あの」
『おまけにちょいちょい向こう側にもうひとり分の飯見えてるし』
「……」
『最近流行りのニオワセってやつか?お前もやるねえ!』

電話越しに豪快な笑い声が聞こえるけれど全く笑えない。冷や汗が流れて全身の血管がキュっと締まるこの感じはいつぞやの大悪手をやらかした対局ぶりだ。

「……なんと申し開きすればよいのか」
『あん?別にお天道様に顔向け出来ねえことしてるわけじゃあるまいし』
「いやでも」
『しっかし仕事がないのが幸いだったなあ?解説やってたら絶対に突っ込まれてたぞ』
「…………お願いなので当面、藤本棋竜とは一緒にしないでください」
『まあ?今主流のネット配信とかを使って?いまだかつてないネット対局とかやってみてくれちゃったら?考えてやらんでもないけど??』

なんだその漠然とした企画は。そもそもネット対局って何をどうやるんだ。全然意味がわからないけれど逆らったら最後大変なことになるのは目に見えているので「なんでもやらせてもらいます」と口にした。

『本当にぃ!?いやあ助かるね!ベテラン勢は皆よくわからんってんで拒否られちゃってさあ☆んじゃ早速後で詳細メールしてもらうから!よろしくね!』
「はい……」
『あ、結婚報告するときはSNSの前に絶対先に俺に教えろよ!ネット経由で知るとか泣いちゃうからな!』

心配しなくてもその予定はありませんと言う前に一方的に電話を切られ、うなだれる。

「島田さんどうしたんですか?」
「や……なんでもないよ」
「?そうですか」
「かなえ……」
「はい?」
「いや、なんでもない」

とんでもないことをしてしまったという罪悪感を抱えながら、何も知らないまま変なのと笑うかなえに心のなかで謝り倒す。一日でも早く日常を取り戻したいと願う日々だが、今このときばかりは、このまま仕事が来なければいいのにと思わずにはいられなかった。
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